「グラマラス女性に挟まれる僕」アフリカ大陸縦断の旅〜ザンビア編⑨〜
2018年9月15日、高所恐怖症のせいで情けない姿を晒しながらも、何とかビクトリアフォールズを背景に写真撮影をしてもらった私。帰り道に散々いじられながらも、無事にお土産屋でティンガティンガを購入して、宿に戻るため、無料バスを待っていました。しかし、とっくにバスの時間は終了しておりタクシーで帰るしかないとのこと。ここで4人全員の現金を合わせても300円という事実が発覚。私たちは、なけなしのお金で分の悪い交渉に出陣したのでした。
「Fawlty Towersという宿まで行きたいんですが、いくらかかります?」
「2000円ぐらいだな。」
「そこを300円で!笑」
これほどの安値をいきなり叩きつけられたのは初めてだったのか、運転手は眉をひそめながら、しばらく間をあけまていました。そして鼻で笑うとこちらも見ずに、NOの一言。
「そりゃそうですよねー。」
「でも続けるしかない。」
その後も馬鹿なアジア人だと思われながら、300円の交渉を続ける私たちでしたが、無情にも残るタクシーは片手で数えられる程度にまで減っていました。
「次のやつ無理やったら、途中でATM寄って現金引き出すか。まぁそれで信用してくれるかは分からんけど。」
「逆に金持ってると思われて、巻き上げられる可能性もあるし。次で決めないと。」
強く粘る覚悟を決めて、次の交渉に向かった私たち。
「300円でFawlty Towersまで連れて行ってください。」
「もしかして日本人か?」
「あ、はい、そうですけど。」
「おぉー会えて嬉しいよ。乗っていきな!」
特に300円について、とやかく言われることはなく、笑顔でドアを開け、私たちをタクシーの中へと迎え入れる運転手。
「(なんやこれ、罠か?いや、でもこれ逃したらほんまに帰られへんかもしらん。」
一瞬の葛藤を経て、スムーズにタクシーに乗車。
「(この人、300円ってこと分かってない可能性あるぞ。到着の時に揉めるの面倒臭いし、今もっかい300円しか出されへんって言うべきか?いや、でも300円って理解して乗せてくれてた場合、またその話することで、『やっぱ300円安いから、もうちょい高くしようかな。』とか思われても困る。いやぁ、どうすっか。)」
走り始めたタクシーの中で、4人ともがそう思っていたであろう時、運転手が口を開きました。
「日本人に会えて本当に嬉しいよ。」
「いえ、こちらこそ。お金なかったので、助けてもらってありがたいです。」
と数字は出さずに、持ち合わせがないことを伝え、運転手の反応を伺うY氏。しかし、それに構わず運転手は続けました。
「全然300円でいいんだ。この間、日本人の旅行者にお世話になってね。優しくしてもらったんだよ。その人には何もできなかったから、いつか困っている日本人を助けたいと思っていたんだ。」
「めちゃくちゃ助けられてます!ありがとうございます!」
300円で動いてくれた運転手の動機に、ほっと一安心。しかし、100%引っ込める訳にはいかない危機管理。到着まで緊張感を緩める訳にはいかないまま、約30分が経過。ただただ優しかった運転手にも全幅の信頼を置けない精神に、ジレンマを感じながらも深々と頭を下げてタクシーを降りました。
無事、宿のベッドで一休みできることになった私たち。シャワーを浴びたり、プールでのんびりしたり、家族と電話したりと、それぞれの時間を過ごし、再度集結した午後7時。
「明日はもうナミビア向かってるもんな。今日が最後のザンビーフか。」
「自転車旅が近づいてます。」
「そうなったら飯もろくなもん食べへんねやろから、最後にいっぱい食べときや。」
数日後にはおそらく過酷な日々が待っている私とぴょんすへの餞別として、Y氏とS氏がザンビーフをご馳走してくれたのでした。今度は調味料込みで。
2018年9月16日、午前8時起床。20時間越えのバスに備えて、スーパーへ買い出しにいく私たち。美味そうに並ぶザンビーフから目を逸らし、地味なパンと水を購入。集合時間通り11時にバスターミナルに到着した私たちでしたが、謎の待ちぼうけを1時間喰らった後、ようやくバスが現れました。
「(何かちっちゃいな。ネットの評判は良かったんやけど。)」
少し不安に思いながらも、ミニバスに乗車した私たち。4人の座席はずいぶんバラバラに配置されており、私は1番奥の真ん中。まだ冷房が効いていないのか、ムンムンとする車内を1番奥まで進みました。
「(え?座るとこないやん。笑)」
両方の窓側には、まぁ何ともグラマラスな女性が2人。真ん中の席はもはやなく、1人1.5席ずつ座っておられる様子。
「Excuse me・・・」
かぼそい声で2人に、そこが僕の座席なんです、とお伝えする私。窓にべったり状態にずれてくれた2人でしたが、それでも溢れ出るグラマラス。
「Sorry・・・」
と3人が謎の謝罪をしたところで、何とか1席、いや0.6席を確保。
「(はぁ。この席で20時間以上は無理やってー。)」
半泣きになる私を乗せて、バスはウィントフックに向けて出発したのでした。