キッシュロレーヌの作り方
リクエストにあったキッシュの作り方です。パートブリゼ=ショートクラフトペストリー生地や具材のバランスなど何度も試作する必要があり、遅くなってしまいましたが、ようやくご紹介できます。クリスマスシーズンに向けて持ち寄りパーティなどにもいいでしょう。
まずはパートブリゼという塩味のタルト生地の解説から。サクッと崩れるような軽い食感のペストリー生地にするためのポイントはグルテンの生成を抑えること。そのためには水和というメカニズムを理解しておきましょう。
小麦粉が水にふれるとデンプン顆粒の表層にあるタンパク質の一部とくっつき、グルテンを生成します。これが水和という反応です。ちなみにグルテンをつくるタンパク質には粘着性があってアルコールに溶けるグリアジンと、繊維質&弾性があってアルコールに溶けないグルテニンの2種類があり、この2つが複合したものがいわゆるグルテンです。
力を入れて捏ねることでも水和が進ませ、グルテンを増やすこともできます。捏ねるとタンパク質が伸び、分子間で結合しながらシート状のグルテンになりますが、この性質を利用したのがパンやうどんです。
一方、力を入れずに休ませるとタンパク質分子がもとの形にもどるので、グルテン生成に必要な分子間の結合ができにくくなります。お菓子作りではたいていグルテンが少ない方がいいので、多くのレシピに「休ませる」という記述がでてくるのはそのためまた、グルテンができるにはタンパク質量の2倍の水分が必要です。つまり、水の量を加減することで、グルテンの生成をコントロールできるので、タルト生地に入っている水分量は極めて少なめです。
タルト生地作りはまず小麦粉とバターを混ぜ合わせます。デンプンの粒子を油で包むことで、水をはじき、グルテンの生成を抑える作戦です。水を染み込ませないために加える水分も「冷水」を使います。温度が低い方が水分子の動きが鈍くなるため、グルテンの生成が抑えられます。そのため小麦粉や水、卵が冷やしておきましょう。
グルテンを抑えればいいんだから強力粉ではなく、グルテンが少ない薄力粉を使えば? と思うかもしれませんが薄力粉だけで作るとグルテンが少なすぎる→コシがなく薄く伸びないので、厚ぼったい生地になりますし、タルト生地というよりもクッキー生地に近い食感になります。一方、強力粉だけで作ると生地が伸びにくいので、2つをブレンドするのが普通です。問題は割合ですがここが難しいところでして、いろいろな配合をテストしました。
ちなみに100%強力粉だと「よりパイっぽく薄い皮が崩れる」食感になります。とはいえ、ちょっと脆すぎかな、という気がしないでもないので、やはり半々がベターかな、と。
小麦粉、塩、1cm角に切ったバターを指先でもみ混ぜます。この段階の目的は小麦粉に脂肪分をコートすることなので、砂状になるまで行いましょう。ただし、手の温度でバターが溶けると、バターの水分を小麦粉が吸ってしまって、意味がなくなります。つまり、小麦粉、バター、室温などを低くしておいて、、手早く行うのが重要です。
カードなどがあれば切るように混ぜてバターの塊がないか、確認します。全体に混ざればOK。
卵と水分を混ぜ込んでいきます。混ぜるときはフォークを使い、切るように混ぜるのがコツ。
全体に水が廻るとこんな状態になります。ポロポロとして生地としては水分が少ない状態です。もっと加水して作業効率を上げるレシピもありますが、基本的にはまとまればOKです。
両手で抑えて生地を一つにまとめます。この時、捏ねすぎないこと。
ラップをして30分以上冷蔵庫で休ませます。理想は一晩ですが、30分でも問題はありません。
もっとかんたんにつくりたい場合はフードプロセッサーを使います。冷蔵庫で冷やした小麦粉とバターをフードプロセッサーで細かくし、砂状になったところに冷水と卵を入れて慎重に回します。
バターと小麦粉だけであれば適当に回してもいいですが、水分が入るとやはりグルテンが出やすいのでここは慎重に。このくらいになれば同じようにラップに包んで冷蔵庫へ。
タルト型も準備しておきましょう。底が外れるタイプを使います。
フッ素樹脂加工の型であれば不要なんですが、ブリキ製であればバターを塗るか、オイルスプレーを吹いておくと安全。
そこに小麦粉(これは薄力粉でも強力粉でもどちらでも可)を振っておくとくっつきにくくなります。余分な小麦粉はきちんと落としておきましょう。
さて、生地を伸ばしていきます。打ち粉(強力粉)を振り、押さえつけるようにしながら生地を伸ばしていきます。
一度伸ばしたら生地を90度回転させて、さらに伸ばしていきます。
麺棒を真ん中から上、真ん中から下という具合に動かしますが、コツは端までかけずに少し生地を残しておくこと。そうしないと端が先に薄くなってしまうからです。ある程度、伸ばしたら90℃回転させて、また伸ばす。生地を伸ばすときはこの繰り返しです。
だいぶ伸びました。ここで厚さと大きさをチェック。
厚さは10円玉2枚分くらいが目安です。
大きさはタルト型を置いて確かめます。
生地を麺棒に巻き付けます。時間に余裕があればこの状態でラップでくるみ冷蔵庫で30分間休ませてください。そうするとグルテンが落ち着くので生地を焼いたときに縮む事態を防げます。
いよいよタルト生地を敷き込んでいきます。広げるのではなく落とす感じです。生地をひっぱたりすると縮む原因になるので注意。
端と底を軽く押さえて、形を作っていきます。大きめに作っているのでタルト生地をハサミで切りますが、この段階では余裕を持たせてください。
写真くらいが目安。この状態で冷凍庫に入れ、30分冷やします。いい頃合いでオーブンを180℃に予熱しておきましょう。
フォークで穴を開けて、生地が膨らむのを防ぎます。
くしゃくしゃにしたキッチンペーパーを敷き、タルトストーンで重しをします。タルトストーンは小豆や米で代用することもできます。(ちなみにここで使った米や小豆は粥などにすればちゃんと食べられます)
180℃で20分焼きます。
いい感じに焼けました。タルトストーンを外してさらに5分〜10分焼きます。
焼いた状態がこちら。さて、ここまで準備ができたらようやく中に流し込む具とアパレイユ(卵液)を作っていきましょう。
ちなみにベーコン、玉ねぎ、チーズが入るとキッシュロレーヌですが、玉ねぎと卵だけでもなかなかよいもの。
玉ねぎは半分に切り、それを半分に切ってから薄切りにします。ベーコンは千切りに。
オリーブオイル(分量外)大さじ1を敷いた中火のフライパンでベーコンを炒めます。
玉ねぎも加えてじっくりとやわらかくなるまでソテーしましょう。
玉ねぎがやわらかくなり、食べておいしい状態になったらタルト生地に移します。
ボウルに卵を割り入れ、生クリームで伸ばし、塩で味付けします。
ナツメグ、黒こしょうで風味付け。ナツメグはなくてもいいんですが、あるとやはり違います。
味の決め手はチーズです。本来のキッシュロレーヌにはグリエールチーズが使われますが、最近でコンテが近所のスーパーで売られていたので今回は使用。チーズの種類はなんでもOKですが、溶けるタイプのスライスチーズはあまりおすすめしません。
チーズを散らして……
パルメジャーノチーズもおろしいれます。チーズはどちらかだけでもOKですよ。
アパレイユを注ぎます。180℃のオーブンに入れて、20分間。
焼き上がりました。
焼き上がりの目安は中心付近の温度と外側の温度を計るのが確実。
火が通ったかは78℃が目安です。外側から火が通っていくので、外側が75℃〜78℃になったら火を止め、そのまま火を止めたオーブンに入れておき余熱で火を通すと中心まで均等に火が入ります。とはいえ外側→中心にかけてのグラデーションというおいしさもあるので、このあたりは好みです。
ここでタルト生地の余分な部分をカットします。包丁で削るようにして、少しずつ形を整えるのがコツ。ここがこだわりポイントです。焼く前に生地を切ってしまうと縮んだりして、きれいに仕上がりません。大きめに焼いておいて、後から形を整えれば……
こんな風にきれいな角が立ちます。
適当な大きさの皿を置いて……。
タルト型を置き、型から外します。
ちなみに冷めてからの方が切りやすいのですが、温かい状態がおいしいので冷めてしまったら温め直して供します。シャンパン、あるいは白ワインとの相性が最高。フランスでは家庭で作られる前菜の定番なんですが、面倒といえば面倒に見えるかもしれません。しかし、生地は寝かせる時間こそかかるものの作ればあっという間ですし、生地をタルト型にしいた状態でラップをかけて冷凍しておけば思い立ったら焼くだけ。あるいは生地を焼いておけば具とアパレイユを流してやはり焼くだけ、とそんなに大変な料理ではありません。ただ、タルト型やら麺棒やらと道具が必要なので、そこを揃える部分がハードルですかね……。
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!