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発酵ラボ〜第4回 乳酸発酵の基本 ザワークラウト〜

乳酸発酵シリーズ、続きます。前回はトマトを乳酸発酵させましたが、今回は王道の乳酸発酵キャベツ=ザワークラウトです。なんでザワークラウトをはじめに紹介しなかったのか、というとテクニック的にトマトよりも難易度が少し高いから。

乳酸発酵は「酸素を遮断すること」が基本だと述べましたが、キャベツは水分量がトマトほど多くないので、若干の注意が必要です。

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キャベツ、半玉を使いました。500g程度です。ザワークラウトに使うキャベツは糖分が多く、繊維がやわらかい冬キャベツが望ましいです。(前回説明したとおり、乳酸菌は糖を消費するので)

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千切りにします。長さが短いほうがザワークラウトっぽさがでるので、千切りにした後、長さを調整しました。洗ってからザルにあげ水気を落としてから、重量をはかります。

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(表面に残った水分)+キャベツの重量の2%の塩(今回は10g)を加え、手で握りつぶすようにしながらなじませます。塩と手の圧力で細胞を破壊し、水分を引き出すわけです。

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しんなりしてきたらOK。今回は瓶に詰めてみますが、前回のトマトのときのようにジッパー付きの保存袋を使ったほうが成功する確率は上がります。瓶を使った理由は水分が酸素を遮断するメカニズムを視覚的に伝えるため。

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よく洗った手やすりこ木などで上から押して、空気を抜きます。隙間があると空気が残り、カビなどの雑菌が増えやすくなります。この作業はとにかく丁寧に。

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重しをします。重しには塩水(2%)を入れたビニール袋が便利です。袋に入れるのは別に水でもいいのですが、なんらかのアクシデントでビニール袋に穴が空いても、塩水であれば塩分濃度に大きな影響を与えない、というメリットがあります。

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6〜8時間待ってみて、水が上がってきていない場合は大人しく塩水を足しましょう。

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今回は50ml加えました。

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ビニール袋で重しをして、側面から空気を追い出します。瓶を使わないで保存袋を使えばこの工程が楽ということですね。

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横から見て、表面を水が覆っていればOK。一緒にジェニパーベリー、コリアンダー、ローリエなどを入れると風味がつきますが、スパイス類を加えるときは水で軽く洗うことを忘れずに。

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26℃〜28℃であれば4〜5日ほどで酸味が出てきます。色が退色して黄色くなるのはpHが順調に下がっている証拠です。伝統的な製法では24℃で14〜18日、20℃で18〜25日ほど発酵させますが、キャベツをきちんと洗い、清潔な手で作業していれば、その前の段階でもおいしく食べられます。

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こちらは一週間が経過したもの。冷蔵庫に入れておけば(風味は変わりますが)かなり長く持ちます。

ザワークラウトは市販品と変わらない品質のものが簡単にできるので、コスト的に自作するメリットがあります。ちなみに瓶詰めのザワークラウトは100℃で35分〜40分程度殺菌するのが普通です。つまり、そのまま瓶詰めの状態でそのまま冷蔵庫に入れておくと、発生したガスで瓶が割れる恐れがあります。蓋をゆるめた状態で保存するなど注意しましょう。

さて、ここからは座学です

発酵漬物の一種であるザワークラウトは大昔から研究があり、1930年にはPedersonらによって「ザワークラウトの発酵におけるフローラ変化」という詳細な結果が報告されています。これによると発酵の初期はロイコノストック属菌(Leuconostoc)などの乳酸球菌が主に増え、後半は ラクトバシラス属菌(Lactobacillus)のような乳酸桿菌が優勢になることが報告されています。

具体的にはこういうことです。発酵中の微生物の消長は、野菜の種類、温度、塩分濃度、重石、密閉度などに影響を受けます。初期段階では原材料に付着している有益ではない細菌が増えますが、やがて乳酸球菌の増殖がはじまるとそれらが抑制され、酸に弱い細菌は減少、死滅します。中期から後期になると乳酸桿菌が増え、さらにpHが低下します。そうするとさきほどまで働いていた乳酸球菌はそこまで酸に強くないので減少していき、最後にはほとんどが乳酸桿菌が占めることになります。この研究は漬け物のなかで微生物が増えたり、減ったりすることを明らかにしたもので、その後の微生物研究のベースになっています。

料理の観点から見るとザワークラウトの良し悪しは「硫黄臭」の有無で決まります。この硫黄臭はもちろんキャベツに含まれるフレーバーノートですが、市販品のなかにも硫黄臭が強いものと弱いものがありますが、発酵温度が高いと強くなる傾向があります。

ザワークラウトづくりにはまだ試すべきことがあるんだなー、と思ったのはNordic food labの「クラウトを潜水させる」という記事を読んだときです。彼らは発酵を遅らせるための手段として「海に沈める」という手法を試していました。

温度が低いと乳酸発酵が遅くなりますが、これは「圧力がフレーバーにどのように影響するか」というのを調べたもの。一方は真空パックにし、もうひとつは袋につめて海中に沈めました。3週間後に取り出してみると、海に沈めたほうはきちんと発酵していたそう。

特徴として乳酸はそれほどでもなかった、とのこと。低温下では乳酸発酵が遅いからでしょう。ただ、プロセスの初期の段階からクリーンなフレーバーで、硫黄臭がなかったという話です。温度管理をどこまで厳密にできるか、というのは発酵を料理に取り入れる際の重要性を示唆しています。はじめから冷蔵庫に入れてしまうと発酵が進まないのではじめの発酵は常温で行い、ある程度まで進んだら冷蔵庫に入れておく(低温性乳酸菌は10℃以下でも生育可能なので)というのも一つの手かもしれないですね。

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樋口直哉(TravelingFoodLab.)
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!