基本のスポンジケーキ
お菓子の基本シリーズです。前回は膨張剤を使ったケーキ(ビクトリアサンドイッチケーキ)をご紹介しましたが、今回は膨張剤を使わないケーキ=スポンジケーキを解説します。いわゆるジェノワーズ(ジェノバ風ケーキ)というスタイルです。
膨張剤を使うタイプのケーキはグルテンの風船に発生した二酸化炭素を閉じ込めて膨らませますが、スポンジケーキは卵(普通は全卵、卵白のみでもできる)を焼く前に泡立ることでふんわりとしたスポンジをつくります。
底が抜けるタイプの型を使うのがかんたん。テフロン加工が便利です。今回は18cmを使用しますが、15cm、21cmの分量も出しておきます。基本的には卵1個に対して小麦粉30g、砂糖30g、油脂5gが基本です。
したがって18cmの型の場合は
卵 3個
薄力粉 90g
砂糖 90g(今回は70gのグラニュー糖+20gのトレハロース)
バター 15g
です。15cmの型を使う場合は卵2個、薄力粉60g、砂糖60g、バター10gになります。(とはいえ、粉は少し減らしたほうがしっとりするので18cmの場合は70gくらいにするのもオススメです)この配合は基本なので、わりとフランス菓子っぽいしっかり目の食感に仕上がります。日本人好みのキメの細かいしっとりしたケーキが好みであれば焼くあいだに失われる水分を補うために牛乳15cc(バターと一緒に加える)を足してください。
材料はシンプルですし、先に泡を作っておくので電動泡立て器さえあれば膨張剤入のケーキよりはかんたん。問題は電動タイプの泡立て器を持っていない場合で、昔の料理本に書かれたケーキの作り方が複雑なのは手作業を前提としているから。
はじめのポイントはやはり『オーブンを予熱しておくこと』。タンパク質が固まるのが遅くなると泡が消えてしまうので、高温で焼くことが大事です。オーブンは190℃に予熱しておきます。
小麦粉はグルテンが少ない薄力粉を使いますが、直前にザルで振るっておきましょう。粉ふるいという道具もあります。
バターは湯煎にかけて溶かしておきましょう。
卵を溶き、砂糖を加えて泡立てます。ミキサーは最高速度です。
目安は白っぽくなり、生地の容量が6倍になったらOK。とにかくよく泡立てることが大事です。泡立て過ぎということはあまりないので、時間をかけて泡立てます。泡立て器を持ち上げて垂れてくる生地で「の」の字が書けるくらい。
仕上げに低速で1〜2分間混ぜます。これは泡のキメを細かくする作業です。スタンドミキサーだと泡が大きくなりがちなので、最後に30秒ほど手で泡立てるという手もあります。
スタンドミキサーだと5分くらいで泡立ちますが、手で持つタイプの泡立て器だと10分〜15分ほどかかります。最適な時間はボウルなどの器具の選択と卵の鮮度、大きさでも変わるのでレシピ化しづらいところ。ハンドミキサーを動かさずたまにボウルを動かすようにすると上手に泡立てられます。
いずれの器具にせよ、はじめは高速で泡立て、低速で泡のキメを整える作業は一緒。この状態であれば(薦めませんが)5分か10分やそこらは放置しても泡が消えたりはしません。
粉を2回にわけて混ぜ込みます。粉を混ぜるときは生地を折り込むようにして混ぜていきます。よく「切るように混ぜる」とレシピに書かれている部分です。
粉を入れると泡が消えるのがわかるか、と思います。なので、粉を入れる作業は手早く行いましょう。グルテンがどうこうとか粉が水を吸うのでとかいろいろな理由が料理書には書かれていますが、粉が残らないことを意識して丁寧に混ぜましょう。粉を入れたら混ぜすぎてはいけないのは「粉の粒子が泡を突き破り、泡の合体を促すので、キメが粗くなってしまうから」という物理的な理由によるところが大きいです。粉が見えなくなればOK。混ぜすぎてはいけない、、、と怯えていると焼き上がったケーキの断面に粉の固まりが浮かんでしまいます。しっかりとつやが出るまで混ぜましょう。
生地の一部(目分量でいいですが大さじ2程度)をとりだして、溶かしバターと混ぜます。油脂を加えると泡の表面がたちまち不安定になって、生地がつぶれるのがわかります。
生地の一部を馴染ませたバターを加えて、さっくりと混ぜたら、ただちに型に流し入れましょう。泡の一番の大敵は油脂です。(参考「メレンゲの科学『淡雪卵の作り方』」)油脂が入ると泡が潰れてしまうので、そうなるまえに焼いてしまいましょう。
190℃で25分間焼きます。
焼き上がり。30cmの高さから落として、熱い蒸気を抜きます。これで冷めてもしぼみません。このあたりの原理は前回の「ビクトリアサンドイッチケーキ」と同じ。
逆さまにして型から外し、冷まします。冷ます際はボウルなどをかぶせて乾燥しないようにするとよりしっとりします。
ケーキが焼き上がるまでの過程でなにが起きているのでしょうか? 卵に砂糖を入れて泡立てるとタンパク質が変性し、せっけん分子のように働き、泡をつくります。砂糖は卵の粘度をあげてタンパク質の変性を早めてくれます。(なので砂糖を減らすと泡は不安定になります)その後、加熱することでタンパク質が固まり、スポンジを形成するのです。
小麦粉のデンプンは泡を硬く、強くしますし、焼いているうちにデンプンがタンパク質と橋架結合をするのでスポンジケーキらしい食感も出ます。ちなみにデンプンを入れないと強度が足りないので、スフレになってしまいます。小麦粉の代わりにデンプンの粉、例えば米粉を使ってもケーキをつくることはできます。こってりとした味が好みなら一部をアーモンドパウダーに変える手もあります。
よくベーキングパウダーが入っているレシピがありますが、キメが粗くなるのでおすすめしません。卵をちゃんと泡立てられるのであれば必要ありません。
バターは泡を潰してしまうのになぜ加える必要があるのでしょうか? バターはケーキが老化するのを防いでくれますし、滑らかな舌触りも作ってくれます。試しにバターを入れなくてもケーキは焼けますが、1〜2時間しか持たず、すぐにパサパサになってしまいます。
電動泡立て器がない場合はどうすればいいのでしょうか? 砂糖を加えることで粘度が上がった卵を手作業で泡立てるのは大変です。砂糖の量を減らした状態でスタートし、卵を湯煎にかけて温め(昔はみんなこうやってました)泡立てながら砂糖を少しずつ加えていく形か、卵白と卵黄をわけて、卵白だけを泡立て、最後に卵黄を混ぜ込む形にすれば手作業でもつくることができます。原理さえわかっていればゴールまでたどり着くことは一応できるはず。好きなようにデコレーションして楽しましょう。