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ふかしなす(蒸し茄子)の作り方

そろそろなすがおいしい季節。茄子の消費量、日本一の県である新潟県には「ふかしなす」という郷土料理があります。消費量二位の京都ではまるごと炊いて食べたりしますが、この料理は「蒸す」という調理法を採用している点に特徴があります。

新潟はなす王国で(枝豆王国でもあるんですが)種類がやたらと豊富で、しかもどれもアクの強い品種。(在来の品種も多いので)そのため皮を剥いて調理する習慣が生まれ、炊くよりも蒸す調理法が定着したのではないでしょうか。

もう一つ、考えられる理由は水なす系のなすの存在です。水なすといえば大阪泉州の泉州水なすが有名ですが、新潟の十全なすももともとは泉州水なすの系統。(ややこしいのはこちらはもともと、しろ十全という品種で、黒十全(梨なす)や新潟黒十全なすとは別の品種とのこと)大阪では一時、水なすの栽培がすたれましたが、さすがは茄子好きの新潟県人。様々な品種を生み出しながらもアクの少ない水なす系統の茄子をいろいろと作っています。こちらはアクが少なく生食できる茄子ですが(新潟の人は浅漬けで食べます)これは皮ごと蒸しても美味です。

ややこしいのは秋田県の角館地方の郷土料理に「ふかしなす」という同じ名前の料理があることで、こちらは蒸したお米と麹を使った漬物です。紛らわしいですが、間違えないように。

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とはいえ最近のなすはどれもあくが少ない品種です。なすがエグいって聞いてもあんまりピンとこないですよね? なすのあく=エグミの正体は水溶性のクロロゲン酸。コーヒーや赤ワインにも含まれているポリフェノールで、抗酸化作用(ラジカル消去活性)を持つ健康的な成分で、特に皮に多く含まれます。

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なすはへたを切り落とし、エグみを軽くするために皮を剥いてから、半分に切り、蒸し器に入れます。

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とはいえ面倒であれば皮ごと蒸すパターンもあります。今日は両方作ってみましょう。

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蒸気が上がっている蒸し器で中火で10分間。

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やわらかくなっているか、よくわからないと思いますが、触ってみるとくたっとしているはず。これでOKです。ラップに包んで、粗熱をとってから、冷蔵庫で冷やします。

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皮付きのなすも同様に処理しますが、このきれいな茄子紺の色を大事にしたいので……。

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ラップでしっかりと包んでから氷水にとって、表面を冷やし、それから冷蔵庫で冷やします。

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手で裂いて、辛子醤油で食べます。ぼくはポン酢で食べるのも好きですし、生姜醤油でも構わないか、と思います。なすはとろけるようで、すごく甘く感じると思います。焼きなすなどと違ってみずみずしいので、いくらでも食べられる味です。

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さて、皮付きはきれいですが、皮の風味(=エグミ)がちょっと強め。このアクは油と一緒に調理すれば気にならない(舌を油がコーティングするので)のですが、こうして比較してみると皮にエグミを感じると思います。嫌いな方はだめだと思いますが、ビールにはよく合う味です。

ところで、蒸したなすはすごく甘く感じると思います。ただ「加熱調理したナスの甘味および渋味について」という論文によると(黒澤、同志社家政 23, 76-80, 1990-02-20)し加熱の場合には還元糖は増えていない、という報告があり、この甘味は蒸す工程で増加した甘味アミノ酸(アラニン、セリン)に由来するものと考えられています。焼き茄子の場合は成分に変化はないので(『焼きナスの調理条件とおいしさの関係』堀江秀樹、平本理恵 日本調理科学会平成20年度大会研究発表要旨集)やはり蒸したなすには独特の味がある、といえるでしょう。

なすは品種が多く、それぞれに調理特性が異なります。蒸しなすに向いているのは丸い形の巾着なす系統とされ、やはり新潟で多く作つけされている品種。とはいえ、普通に売っているなすで作れないわけではありません。個人的には焼き茄子よりも蒸しなすのほうが好きなので、紹介してみました。

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