最高のおにぎりの作り方
この記事が面白かったです。
なにを隠そう僕はおにぎりが大好きです。しかし、おにぎりをつくることは誰にでもできますが「おいしいおにぎり」を作るのは案外、難しいもの。最高のおにぎりに必要な要素は「ご飯がふんわりとして」「表面がベタつかずに噛むとほろほろと崩れ」「適切な塩味がついている」の3つ。
従来の作り方は
ご飯がアツアツのうちに塩(または塩水)をつけた手にごはんをとり、三角形(または俵型)に握る
というもの。
まず、ご飯を手で握ると雑菌が付着し、それが時間経過とともに増殖し味を損ねるのでここから見直すことにしましょう。ラップを使っておにぎりを包むのは今では一般的ですよね。
適切な塩味を探る
まず適切な塩分濃度を比較検討しました。
前述の記事にあるYuka方式を採用し、広げたラップに塩を振ったところに、ご飯をのせて軽く丸めます。
ご飯の量は100gとしました。コンビニエンスストアのおにぎりも通常、一個100g以上に設定されていますが、大きさとしてはほぼ最適解でしょう。これ以上、大きくなると海苔や具材とのバランスが悪くなります。
それぞれ米の重量の0.1%、0.3%、0.5%、1%、1.2%の塩で比較検討します。量の関係で0.1%のものは片面だけ、0.3%以上からは両面に振っています。
上記のおにぎりをつくり、1時間放置し、冷ましてから比較します。結果として0.3%〜0.5%の塩分濃度のおにぎりがもっとも食味がよく、1%も塩おにぎりとして食べる分にはおいしいものでしたが、1.2%は塩味が強すぎる印象がありました。
具材に塩気があれば米の塩分量をもっと減らしてもおいしいのか、と思い、0.1%の塩+塩気の強い焼きたらこというバージョンも検討もしましたが、おにぎりとしての一体感がなく、米の味が弱く感じられました。どうやら米には具材の塩分と釣り合うだけの塩気が必要なようです。おにぎりの味にとってバランスが重要であることがよくわかります。
塩分濃度の比較から、おにぎりに必要な塩分量は米に対して具入りのおにぎりは0.3%、具なしの塩おにぎりは0.5%という結論を導き出しました。気になったのは熱いうちに握り一時間経過しているのにもかかわらず、塩の量が増えると溶け切らない部分、あるいは味のついていない部分が出てくる点。塩気がないと米の甘味が弱く感じられてしまうので改善する必要があります。
味付け方法の検討
そこで味付け方法の検討を行いました。Aはさきほどと同じく表面に塩をまぶしたもの。Bは炊き上げた米に塩を混ぜ込んだもの、Cは塩分濃度0.5%になるように炊き込んだものです。
おにぎりとして圧倒的においしかったのはCの炊き込み型です。Bも同じように塩がまんべんなくまぶさっているのですが、Cのほうが塩がより溶けているせいか、お米の甘味を強く感じます。なにより、炊き込み型のメリットは表面がベタつかずに噛むとほろほろと崩れる食感が出たこと。これは調味料を加えることで米の吸水が妨げられた結果、米の粘りが出なかったからです。
米のベタつき問題の解決
最後に検討したのは米のベタつき問題。前述の記事に
今朝は家にラップしかなかったのだが、アルミホイルで握るほうがアルミとご飯の間に程よい隙間ができるため、時間が経ってもおいしいおにぎりになる。
とあったので、A、Bで比較しました。
結果は「炊きたてのご飯を握った場合、アルミホイルのほうが多少はベタつかない」程度の差しかありませんでした。アルミホイルは吸湿性のない素材のため、内側に水分が結露する現象は変わらないのです。ゆるく立体的に巻いてアルミホイルの表面についた水滴が米につかないようにすれば解決するかもしれませんが、持ち運ぶことを前提にしたおにぎりの場合は現実的ではありません。
ベタつき問題を解決するためには硬めに炊き上げた米をバットにうつし、うちわで仰いで表面を冷ますのが簡単です。おにぎりの代表的な失敗パターンは「硬くなってしまう」というもの。米が硬くなるわけではなく、原因は握る際に米が隙間なくぎっしりと詰まってしまうこと。この状態は避ける必要があります。
うちわで扇ぎ表面の水気を飛ばすことで、米のまわりの粘着性を抑えることができます。(ベタつきの原因は水分、というのはチャーハンの作り方でも触れましたね)ベタつかせないことで米同士が面ではなく、点でくっつくようになるため、仕上がりがふんわりと軽くなるのです。
もちろん、温度を下げすぎると米がまとまらなくなるので、冷まし過ぎには注意が必要。50℃〜60℃くらいを目安にうちわで扇ぐことで米の食感に張りが出て、冷めてもおいしいおにぎりになります。熱いご飯を我慢して、手を真っ赤にしながら握る必要もありません。
気づいたことはおにぎりと寿司飯の共通項です。どちらも空気を含ませつつ、適切な形にまとまり、強い味の具材(おにぎりの場合は具、寿司の場合はネタ)とバランスがとれる適切な塩気が必要、という共通点があります。おにぎりはなんとなく簡単そうに思えますが、一朝一夕では身につかないすし飯の作り方と似ていると考えれば、その難しさがわかる、というものでしょう。
最高のおにぎりの作り方
それではここまでの検討結果を踏まえた現時点での僕が考える最高のおにぎりの作り方をご紹介します。
最高のおにぎりの作り方
1 米(2合)は軽く研ぎ、炊飯器の内釜にうつす。水(内側の目盛りの2mm下を目安)と塩小さじ1/3〜1/2を加えて、通常通りに炊飯する。
2 炊きあがった米はただちにバットや皿にうつし、うちわであおいで水分を飛ばす。
3 ラップで一個100gを目安に握る。
では、ポイントを確認していきます。
あらかじめ水を張ったボウルを用意し、ザルに入れた米を落として、指先で軽くかき混ぜてから、水を捨てます。これを二回ほど繰り返します。お米は水に入れた瞬間から吸水をはじめるので、最初の洗いだけは早めに水を捨てるといいでしょう。とはいえ、研ぐ段階で米が吸水する量は全体の10%ほどなので、そこまで神経を使う必要はないのかもしれません。それよりも大事なことは「米を洗うときは軽く」ということです。表面の酸化した部分を洗い流すだけで十分。
というのも、お米は洗うほどに表面の糊粉層が落ちます。糊粉層とは貯蔵タンパク質を含む細胞の層のことで、イネ科の種子に特有のもの。酒造りでは米の表面を削りますが、これはタンパク質が雑味の原因となるからで、実際、お米はしっかり研いだほうがご飯単体としてはすっきりとした味わいになります。お食事という形で赤だしと漬け物を添えて提供するのであれば、よく研いでから炊飯したご飯を提供したほうがおいしい、と言っていただけるかもしれません。
しかし、おにぎりの場合は話が別です。すっきりした味わいにしすぎると後から巻く海苔の強い風味に米の味が負けてしまうのです。おにぎり屋さんとしてははじめてミシュランに掲載された浅草のおにぎり専門店、宿六さんも同様の理由で米をあまり研がないように心がけているという話を聞いたことがありますが、たしかに比較検討すると海苔の強さがよくわかります。この風味と釣り合うだけの味が米にも必要なので、お米の研ぎ過ぎにはくれぐれも注意しましょう。
余談ですが唐揚げやハンバーグなど油脂のコクがしっかりとした現代の食卓にあわせる場合も、お米は研ぎすぎないほうがバランスがとれると思います。
水分量は控えめに
さて、お米を炊飯器にうつして、水を注ぎます。水の量は控えめに、お鍋で炊く場合は浸水時間を短くし(15分〜30分)同様に少なめの水(5%減)で炊いていきます。これはすし飯と同じですが、とにかく米の粘りを出さないように気をつけます。
「市販おにぎりの実態調査」という研究によると市販のおにぎりの水分含有量の平均は約56%、自家炊飯は約62%と少し高くなっていました。この高い水分量が自作おにぎりのおいしくない原因です。
ここで塩を加えます。塩分濃度0.3%おにぎりを握る場合は「米2合に対して塩2.1g(小さじ1/3ぐらい)」塩分濃度0.5%おにぎりの場合は「米2合に対して塩3.5g(小さじ1/2くらい)」が目安です。塩を加えることで米のベタつきを抑えることができますし、数多く作る必要がある場合も楽です。
炊きあがったお米をただちにバットかお皿に移して、うちわで扇ぎます。酢飯ほど温度を下げる必要はありません。バットに移すとあとの工程がやりやすくなります。ここでご飯を8等分すればだいたい一個100gになるので。
ご飯の半量をラップの中央に置き、具材を載せます。
上からもご飯をかぶせて、、、
三角になるようにやさしく成形します。(成形の仕方は山口さんの記事を参照してください)形はどうでもいいので、あくまでやさしく。
出来上がり。より完璧を目指すのであればここで一度、ラップを外します。
ラップを外して完全に冷ますことで、米のベタつきをさらに抑えることができます。また、0.3%塩分濃度の具入りのおにぎりの場合は三角形の頂点にごく少量の塩を振るのもおすすめです。はじめに塩気を感じさせることで、全体の印象を強めることができます。俵型のおにぎりの場合はどこから食べるか予測できないため、この技法には使えないので三角形ならではの技。完全に冷めたらラップをするか、海苔を巻きます。
海苔はザラザラした面を内側にして、ご飯を中央に置くようにします。ゆるく握ったご飯は崩れやすいですが、海苔が底の部分を支えてくれるので食べやすいです。
冷ましているので海苔がアルミホイルにくっつく……ということもほぼありません。海苔がアルミホイルにくっつくのは米の水分が原因だからです。ただ、海苔がしっとりしてしまうので、海苔は別に持っていき、食べるときに巻くという形でもいいでしょう。
いや……長い記事でした。この作り方はいちいち塩を手につけたりする必要がないため、非常に効率よくつくれます。他にも海苔の厚さ(薄いか、厚いか)や米の品種など考えるべき要素はいくつかありますが、とりあえずこの作り方で最高のおにぎりをつくることができるはずです。
ところで、コンビニエンスストアのおにぎりもおいしくなりましたよね。大きな転換点は2004年〜2005年にありました。それまでのコンビニエンスストアのおにぎりの製造工程は炊き上げたご飯を一度、冷まし、それから成形するというものでした。食中毒を予防するために60℃以下の危険温度帯を早く通過させ、24℃以下にする必要があるからです。
ご飯の冷却には真空冷却器が使われていため、減圧環境下でご飯粒のあいだに存在する空気が抜けてしまい、ご飯が硬くなるという問題があり、口のなかでご飯をほぐれやすくするために油脂を添加していましたが、それが「茶漬けにしたら油が浮いた」という不評を招いたことも。油脂を添加することで時間経過とともに食味も下がるため、この問題の解決は急務でした。
そこで某メーカーが開発したのがホット成形という技法です。これは熱いうちにご飯を成形し、空気を入れて24℃以下にするというもの。この技法によって、油脂を添加する必要がなくなり(現在でも、直接パッケージに入れる塩むすび形の商品にはパッケージに米粒がくっつくのを防ぐために表面に油脂が塗られていますが)おいしさが長持ちするようになりました。
とはいえコンビニエンスストアのおにぎりだけではなんとなく寂しいもの。おにぎりは作ってから食べるまでのあいだの時間も楽しみであり=おいしさという感じがなんとなくします。