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トマトの基本〜冷やしトマトの作り方〜

基本シリーズです。今日は居酒屋などの定番、冷やしトマトの作り方。材料はトマト、ごま油、塩です。完熟トマトにはうま味成分であるグルタミン酸が含まれ、匂いを持つ硫黄化合物も含まれています。うま味と硫黄化合物は果物よりも肉類に含まれている成分なので、肉の風味と合わさるとお互いの引き立てあいますし、肉の代用としても使われるのはそのため。(キャベツや芽キャベツも同様です)

冷やしトマトの最大のポイントは「おいしいトマトを使うこと」です。

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まずはトマトを買ってきます。今回は秋においしい福島の南郷トマトを使いました。トマトはヘタが生き生きしているものが良質。お尻の部分に放射状の線が出ているものがいいとされています。ただ、今売っているトマトは糖度が高いものがほとんで、だいたいこの線が入っているのであまり参考にはならないかも。

まず「トマトは冷蔵庫に入れてはいけない」とよく聞きますが、それは本当でしょうか? 調理科学の虎の巻「マギーキッチンサイエンス」には

トマトはもともと温かい気候に育つ植物なので、室温で保存するべきである。冷蔵保存すつと新鮮な風味が損なわれやすい。

とありますが、この質問に答えるのは簡単ではありません。たしかにトマトは冷蔵庫に保存するべきではありません。糖分や酸は冷蔵保存による影響をあまり受けないのですが、トマトの風味を生む酵素が冷蔵することで失活してしまうので、風味が落ちると考えられているからです。(興味が有る方はこちらで元論文を読むことができます「Chilling-induced tomato flavor loss is associated with altered volatile synthesis and transient changes in DNA methylation」Bo Zhang, Denise M. Tieman, Chen Jiao, Yimin Xu, Kunsong Chen, Zhangjun Fe, James J. Giovannoni, and Harry J. Klee)

トマトは室温で保存するべき、たしかにそうなのです。理想的には。

しかし、よく考えてみてください。スーパーマーケットで売られているトマトはすでに冷やされた状態で流通していますし、常温で熟したトマトはすぐに傷んでしまいます。この事実を無視して、議論を進めることはできません。

結論をざっくりと説明すると以下の通りです。あなたがもし道の駅やファーマーズマーケットでトマトを買った場合、あるいは自分で栽培したものを使う場合はトマトが完全に熟するまで室温で保存します。熟したトマトはすぐに消費するか、それ以上熟するのを防ぐために野菜室で保存してください。カルフォルニア大学デービス校植物科学部のこの報告によると完熟トマトは7〜10°Cで保存することが適切とのこと。メーカーや設定によっても冷蔵庫の温度は異なるので一度は計ってみるのがいいでしょう。うちの冷蔵庫に野菜室なんてないがな、あるいは入らんがな、という方はドアポケットなどはいかがでしょうか。

問題はスーパーマーケットで買ってきたトマトの扱いです。通常は野菜室で保存するのがいいですが、トマトの風味は落ちているかもしれません。ここで解決策が一つあります。こちらのフランスの研究(『家庭におけるトマトの保存戦略』)ではダメージを受けたトマトも20℃に24時間置くと、酵素の一部が回復することがわかっています。前述の「マギーキッチンサイエンス」にもこうあります。

完熟トマトは冷蔵にもある程度耐えうるが(中略)酵素活性はある程度回復するので、冷蔵されていたトマトは室温に戻して1〜2日置いて食べるとよい。

買ってきたトマトがまだ硬い場合は室温に1〜2日置いてから食べましょう。冷たくして食べたい場合はそれから冷やせばいいのです。

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完熟したトマトであれば冷蔵庫に入れても大丈夫ですし、そのほうが長持ちします。実際「seriouseats.com」の「トマトを保存する方法」では完熟トマトを冷蔵しても風味には特に影響がない、という結果を導き出しています。この記事ではトマトは冷蔵してはいけない、という説が流布した理由として、トマトの冷害が知られるようになった時代は未熟なトマトを流通させていたからではないか、と指摘していますが、時代によって流通事情が変わったことはやはり無視できないでしょう。日本のトマトも昔は青い状態で収穫し、流通過程で色づける方法が主流でしたが、現在は樹の上で熟させたものも流通しています。なかなか一言で答えがでる質問ではないのです。

一点だけ、保存する際はトマトのヘタを下にします。トマトの水分が枝付き部分から蒸発していくからです。これだけで保存期間がかなり伸びます。

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今回は常温で1日置き、野菜室で1日冷やしたトマトを使いました。あまり冷やしすぎてもやはり風味が弱くなりますが、このあたりは好みです。甘いトマトは水分が少ない環境で育ったので、実からの水分蒸発を防ぐために皮が厚め。皮があると口当たりが良くないので湯剥きします。

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皮を剥きましょう。冷やしトマトを湯剥きするとトマトに火が通ってしまうので、包丁で剥いたほうがいい、という人もいます。それはそれで頷ける意見です。ただ、湯剥きのほうが楽ですよね。

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さて、この冷やしトマト。最大の分かれ道は切り方です。トマトの繊維は縦に走っていて、果肉とゼリー状の部分の部屋(子室といいます)で構成されています。果肉には甘みがあり、ゼリー状の果汁には酸味とうま味があります。

繊維を残す形であるくし切りにするとゼリー状の部分が舌にあたりやすくなるので酸味を感じやすくさっぱりとした仕上がりに。繊維を断ち切るように輪切りにすると甘みのある仕上がりになります。

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好みですが、冷やしトマトは断然、輪切り派です。輪切りだけだとちょっと大きいので、半分に切りました。

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粒の大きな塩を振り、ごま油をかけました。好みでオリーブオイルでもいいでしょう。

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焼肉屋さんの付け合わせに出てくる冷やしトマトを意識しました。さらにプラスするなら白ごまを振るとおいしいです。白ごまを入れると自然と噛む回数が増えるので、香りを強く感じさせることができますね。さっぱりとした口直しの一皿。

トマトは夏が旬と思われがちですが、秋のトマトは寒暖差も出てきますし、時間をかけて育てるので夏よりも美味しい。10月ぐらいまでが一番美味しい時期なので、試してみてください。

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樋口直哉(TravelingFoodLab.)
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!