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圧力鍋の教科書

「圧力鍋は素晴らしい器具だ」マイクロソフトの元CTOでモダニストキュイジーヌの生みの親であるネイサン・ミアボルトはそう言い切っています。これまで圧力鍋はどちらかというと家庭用、あるいは業務用として使われ、時短や効率化のための道具という側面が強く、美味しさを目指す料理には用いられてきませんでした。しかし、それも昔の話、圧力鍋はその機能性から現代料理に欠かせない道具です。

圧力鍋は密閉をし、バルブで内部の蒸気を調整し、圧力をかけることで、高い温度での加熱を実現しています。高い温度で加熱するので調理時間が短くなる、という仕組みです。圧力鍋の素晴らしさは時間短縮以上に料理の質を向上させる点にあります。秘密は芳香化合物です。ことこと煮ていると鍋からいい匂いがしますが、それは貴重な香り成分を逃しているのと同じこと。心は温まるかもしれませんが、肝心の食べる料理の香りを捨てているようなものです。

その点、圧力鍋は密閉されているため、香りが逃げません。蒸気に溶けた揮発性の香り成分も鍋のフタの内側に集まって、再び鍋に落ちるので、料理を口に入れた時、食材の風味が強くなるのです。

もちろん高温で加熱することで短時間で効率よく加熱できるというにもメリット。温度が10℃上がるごとに食品は2倍の速さで加熱されるため、昔は数時間かけていたチキンストックも圧力鍋であれば加熱時間45分でできます。25分かかっていたリゾットは7分で完成しますし、1時間かかる調理時間のあいだ終始かき混ぜておく必要があったポレンタも瓶に入れて加熱すれば12分でできます。しかも、味は従来の方法よりも良いのです。

また、これは現代料理のテクニックですが120度という水の沸点以上の温度で加熱するため、ニンジンやかぼちゃ、バナナといった食材を加熱することで従来では得られない風味をつくることもできます。(これはメーカーが推奨していない使い方なので、注意してください)

圧力鍋の歴史

圧力鍋の原理を発見したのは蒸気機関の原理の開発者として知られる物理学者ドニ・パパンです。1670年代後半に彼がロンドンで働いていたときに発明し、1682年には王立協会のために食事を作り「チーズのようにやわらかい牛肉」で人々を感嘆させました。しかし、パパンの圧力鍋はおおがかりなものだったので、それから約250年間は一般化しませんでした。

1938年にアメリカのアルフレッド・ビッシャーという人が家庭用の圧力鍋を考案。第二次世界大戦がはじまると野菜の缶詰が軍需用に回され、家庭では入手ができなくなったことを背景に、全米に普及します。

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圧力鍋に怖いというイメージを持っている人がいますが、安全装置がついているので大丈夫。使い方の基本は

1 蒸気が出るノズルが汚れてたり、詰まっていないか確認する
2 材料を入れ、蓋をしっかりと閉める。
3 中火から強火にかけて、蒸気が出てきたら弱火に落とす
4 時間になったら火を止めて、圧力が抜けるまで冷ます

だけです。水がなくなると焦げますが、10分の加熱につき最低200cc+αの水分が必要と憶えておけば大丈夫。

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現在の主流は「バネ式バルブ」の製品です。バネ式のバルブは通常の状態だと開いていて、熱が加わると押し上がり、通気孔を防ぎます。圧力がかかるので、そうしたら火を弱めましょう。蒸気がたくさん出る状態は好ましくありません。(せっかくの蒸気が芳香化合物と一緒に逃げてしまうので)一昔前まで主流だったおもり式圧力鍋の場合は1分間に3〜5回回る程度が目安です。

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電気圧力鍋であれば火加減の調整は必要なし。スイッチを入れればあとは勝手にやってくれます。短所はぬるま湯をかけて急冷する、という作業ができないことくらい。温度を制御するので水分蒸発率がガスコンロに置く圧力鍋よりも低く、風味も残りやすいのが特徴。ただし、水分蒸発率が低い(その分風味が残るということ)ので、カレーなどをつくる際にはレシピよりも水分を控え目にしてつくられないと、分量のルーを入れると水っぽくなったりします。

注意点は以下の通り

使う前にパッキンとバルブをチェック

パッキンはゴムでできている消耗品です。食材がパッキンについたり、傷んだりすると蒸気が漏れるので定期的に点検しましょう。

液体は2/3まで

蒸気を鍋に充満させて圧力をかけるので、入れすぎると意味がありません。調理すると膨らむ豆や穀物の場合は半分までにしましょう。豆もそうなのですが、オートミールやパスタなど泡が出る食材は水の量を特に気をつけるか、避けたほうが安全です。泡がバブルや排気口をつまらせる恐れがあります。同様の理由で泡が出る重曹を直接入れて料理をしないのも安全に使うポイント。大量の油を入れて料理しないという注意表記には一応従いましょう。

熱いうちに蓋やバルブを開けない

なかから熱い水蒸気や食材飛び出して、やけどをします。しばらく置いておくか、水をかけて冷まし、圧力バルブが下がってから蓋を開けるようにしましょう。

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圧力鍋で加熱する温野菜

modernist cuisineに掲載されている「圧力鍋で加熱する温野菜」をアレンジした料理です。オリジナルは塩が多いのでその点を調整しています。圧力鍋で根菜類を調理するとその力強い味わいに驚きます。(写真には入っていませんが小玉葱は入れたほうがいいです)

小人参   5本
小大根   4本
ラディッシュ 小6個
ヤングコーン 3本
小玉葱    4個
バター    10g
水      80cc
塩      少々

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小さい野菜を使っていますが、普通の野菜を使う場合は小さく切ります。

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あとはすべての材料を鍋に入れて加熱するだけです。圧力鍋で調理するときはかき混ぜられませんし、調理中に状態を確認することもできません。そのため、ある程度の慣れが必要なんですね。

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強火で加熱し、バルブがしまり、蒸気が出てきたら火を弱めます。先程説明した通り、この時、火が強いと水分蒸発量が多くなり、焦げます。3分間、加熱します。

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熱いので気をつけてシンクに移し、鍋の縁にぬるま湯をかけて急冷します。(蓋の上から冷水をかけるのは危険です)気圧が下がり、加熱が止まるので、バルブを緩めてから、蓋を開けます。

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必要に応じて塩で味付けしますが、必要ないかもしれません。

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モダニストキュイジーヌの本には「圧力鍋で調理した野菜はキャンディのような食感」と表現されていますが、これは日本人にはなかなかわからない感覚です。つまりはとろけるようにやわらかい、ということでしょう。

こちらの料理の特徴は非常に少ない水分で加熱すること。そのため味が凝縮するのです。圧力鍋の料理本に載っているレシピは鍋でつくれる料理を短時間で、というコンセプトがほとんどですが、こちらは圧力鍋の特性を生かした調理法と言えます。

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樋口直哉(TravelingFoodLab.)
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!