noteにアップするための〈レシピの書き方〉
noteには毎日、たくさんの記事がアップされますが「もっとレシピ記事がアップされてもいいのでは」と思っています。ということで、今回のテーマは「レシピ記事の書き方」です。
レシピの書き方
レシピは「おいしさ」を伝える手段の一つ。良いレシピは
ものです。反対にわかりにくく、ターゲットや目的が明確ではないため自己満足に終わっているレシピは好ましくないでしょう。レシピを書く前に必要なのは「誰のためのレシピか」を明確にすることです。対象はできるだけ具体的であることが望ましく「都内在住、IT企業勤務、週末に料理をするのが好きな三十代男性」くらいまで決めるとレシピの目的が明確になります。(ちなみに樋口のnoteは料理ギーク向けの記事が多いですが、それは主に自分のために書いているからです)
書店に行くと様々な料理雑誌が出版されていますが、読者層はそれぞれ。誰のためのレシピか、を想定すると自然と「食材」や「調理法」なども決まってきます。例えば子供に料理を教えるとすれば「高火力のハイバーナーを使った中華料理」「満漢全席の再現レシピ」よりも「安全でかんたんな料理」が適しているのは当然。「俺の考えた最高のブイヤベース」みたいなレシピよりも誰かの役に立つ(かもしれない)レシピを書いたほうが有意義です。
もともとの意味に立ち返るとレシピとは「指示書」という意味。指示が不明確な上司の下では誰も働きたくないで、その料理のゴールとそこに至るまでの道筋も明確にする必要があります。ゴールである出来上がり写真はわくわくするものがいいですし、道筋=プロセスでは作り手が迷わないことを心がけること。また、レシピは〈指示書〉という性質から強い印象を与えがちです。なるべくやさしく書くことを心がけましょう。
レシピは料理という消えてしまう現象を「言語化」する作業です。「俺のレシピはこれだ!」と一方的に送りつける作業ではないので、そういう意味からいうとレシピはどちらかというと手紙に似ています。おいしさを伝えるための手紙ですから渡す相手にわかるように書きましょう。
さて、レシピは基本的に「材料表」と「作り方」の2つに分けられます。
材料表には食材名と分量が記載されます。並べ方に決まりはないのですが
主素材→
副素材→
調味料等
の順番。あるいは使用順に
主素材→
調味料A→
副素材→
調味料B
という具合に整理するのが基本。自分のなかでなんとなく順番を決めておくと読む人も楽です。2人前や4人前などの目安も忘れずに添えておきましょう。
まずは計るところから
調味料や小麦粉などの副素材の分量を指示する場合は「計量カップ」や大さじや小さじなどの「計量スプーン」を使うのが一般的。計量カップは通常1カップ=200cc、1/2カップ=100cc、1/4カップ=50ccです。小さじ1 は5cc、大さじ1は15ccになります。つまり、小さじ3は大さじ1になります。従って「サラダ油 小さじ3」という表記はNGで、その場合は「サラダ油 大さじ1」という表記が正解です。
1カップ200ccはお椀一杯分やコーヒーカップ1杯分に相当します。レシピ記事を書きたい人は普段、料理をするときも大さじ、小さじで計量する習慣をつけておくとレシピを書く時に楽です。
計量スプーンは日本生まれの調理道具で、和食をつくる際には非常に便利です。例えば肉はスーパーで300gくらいのパックで販売されていますが、その場合の味付けは醤油大さじ1くらいが適当。食材に対する塩分量は0.7%〜1.2%くらいが目安なのですが、醤油大さじ1の塩分量は約2.6g(醤油の塩分量はJAS規格で決まっているので、メーカー問わずだいたい同じです)なので、300gの肉を大さじ1の醤油で味つけすれば0.86%くらいの塩分量になるからです。
JAS規格のないみそはメーカーや種類によって塩分が異なりますが、味噌汁を作る場合はだいたい150cc〜180ccに対して大さじ1のみそが目安。この部分を抑えておくと味は大きくハズレません。大さじを基準に味をもっと濃くしたい、薄くしたいという風に主素材(この場合は肉)の分量を変えていくと様々な味をつくることができます。
もう一つ、レシピ記事を書く人は重量も意識しておくと便利です。というのもこの計量スプーン、実は正確な計量が難しい調理道具なのです。液体をはかる場合、表面張力でギリギリになるまでが目安。塩や砂糖などはすり切りで計ってください。
例えばこんな写真のように普通にすくった状態では正確に計量できません。醤油大さじ1は18gとされていますが、、、
ほら、16gしかありません。大さじ1ならいいのですが、大さじ5を計るとなると2×5で10gとなり、かなりの誤差が出てしまいます。
とはいえギリギリ、教科書どおりに計ったところで、、、
17gだったりします。家庭では少量作る場合がほとんどなので、1gずれたくらいでは味には大きく影響しませんが「どうしても気になる」という人はg表記をするという手もあります。分量の表記には書き手のスタンスが出るだけですからどちらを選んでいただいても大丈夫だと思います。
例えば小麦粉大さじ10のように、大さじで計るのは大変という分量の場合は「g表記」するのが一般的です。例えば小麦粉大さじ10は小麦粉90gになります。計量スプーンは体積ではかる道具なので、重量に換算するとそれぞれ重さが異なります。よく使う調味料は頭に入れておくか、ネットで検索すると表が出てくるので冷蔵庫に貼っておくと便利です。
普段、料理をするときは計ったりしない人がほとんどだと思いますが、gで把握しておくと便利なことが一つあります。例えば計量スプーンで計りづらいマヨネーズなども
ある程度の量を容器に入れた状態で計りに置き、風袋(tare)機能を使って容器の重量を抜き、それから使用する分を使うと
使用した分量が表示されます。ぼくは普段、gで考えていますが、雑誌の仕事などでは「大さじ小さじ表記」が求められますから、その場合は大さじ小さじ表記になるように再計算しています。
食材の重さの目安も頭に入れておきましょう。例えばじゃがいもは1パック500gで販売されていることが多く、マッシュルームは1パック150gという具合です。缶詰やパックなどは商品によって重さが異なるので「トマト水煮缶 180g」という具合に重量を書き添えます。また、玉ねぎは一個200g前後が目安ですが、計ってみると意外と大きさが違っていたりします。その場合は
玉ねぎ(180g程度)
とレシピに表記すると親切です。この場合の重量表記は皮などを含めた(廃棄分を含まない)もので、もしも、じゃがいもの皮を剥いた重量などを示したい場合は
じゃがいも 300g(正味)
と正味と書き添えましょう。
レシピはスッキリとしていたほうがいい
レシピはすっきりとしていることが望ましいです。例えば
みたいなキリの悪い数字は好ましくありません。この場合であれば
のような形がいいでしょう。「それだと俺の味が出ない」という人は目をつぶって試食してみてください。料理は変数の多い作業。味は分量だけではなく他の要素でも変わってくるので、おそらく誤差の範囲内だと思います。そんな部分にこだわるよりも別のところに力を入れましょう。
気をつけるべきは他にもあります。例えば生クリームは200ccで売られていることが多いので「生クリーム 250cc」という分量は避けるべきです。100cc、150ccのような切りのいい数字がよく、200ccで使い切れる分量にするのも親切でしょう。
作り方は工程ごとにわけて書く
続いて作り方。
作り方は大きく
・下ごしらえ
・調理
・仕上げ
に分かれます。書き方には決まりはなく「伝わればいい」ので、普通の文章とルールは同じです。「だ、である」体か「ですます」体かは統一されている必要がありますし、一文は短いことが望ましいです。
例えば注意したいのは「……しておく」という表現。つい「しいたけは厚切りにしておく」という具合に使ってしまいがちですが、「しいたけは厚切りにする」と文章がすっきりします。「……しておく」というのは「バターは室温でやわらかくしておく」という具合に、事前に準備して置かなければならないときだけに使いましょう。
書いたらまず読み返して「材料表と作り方に出てくる食材に過不足がないか」をまずチェックします。作り方に材料表に出てこない食材が出てくると混乱を招くからです。野菜やパスタを茹でるときに使う塩など、あえて材料表に載せない場合もあります。その場合は塩10g(分量外)という具合に明記します。
対象とする読者にもよりますが、工程に盛り込みたいのは
・下ごしらえの順番
・フライパンや鍋などの使う器具
・火加減や途中の調整
・調味料を入れるタイミングや加熱終了のタイミング(3〜5分加熱する、やわらかくなるまで茹でる、串がささるまで茹でる、という具合)
などです。レシピに必要な要素はただ一つ「親切さ」です。A地点からB地点までの道順を電話で誰かに伝える場合「駅からまっすぐ行って、三番目の角で曲がったところのマンション」というのはやや親切心に欠けます。
「駅の北口を出てもらって、歩いて5分ぐらい。北口の時計のモニュメントがある道を真っ直ぐに進むと、左手にローソンが見えてくるからその角を左折。ちょっと進むと公民館があるので、もっと進んだところにあるカーサ・ビアンカっていうマンションの401号室。ガソリンスタンドまで行ってしまうと行き過ぎ」
と伝えるほうが親切です。ときには文章だけではわかりにくい場合もあるでしょう。その場合には「プロセス写真」というものを使います。
プロセス写真は調理工程のポイントを伝えるために有効な手段です。紙の本ではすべてを盛り込むことは難しいですが、インターネット記事では(常識の範囲内であれば)制限がありません。この写真であれば「これくらいの焼き色がつくまで加熱するんだな」と鍋のなかの状態を伝えることができます。
最後に
レシピには料理の作り方だけではなく「料理が生まれた背景」や「食べたシチュエーション」も記録しておくといいでしょう。自分があとから読み返したときに思い出せるきっかけになります。また、食はプライベートな領域に属する事象なので、職場で隣に座っている人が普段、どんな風に料理をしているのかは意外と知らないもの。「好きな食べ物の話」は居酒屋での雑談の鉄板ですが、誰かの好きな料理の話を聞くのも楽しいものです。
また、誰のお家にもその人の家でしか食べられない料理がきっとあるはず。そうした料理をレシピ化すると誰かの役に立つかもしれませんし、なにより自分のためになります。
おまけ プロセス写真と完成写真の撮り方
料理写真の撮り方はインターネットで検索すればいくらでも出てくるので、ここではぼくのやり方を簡単に書いておきます。機材はいいものを使うに越したことはありませんが、ぼくは2万円くらいで売られている一眼レフカメラか3万円台で売られているミラーレス一眼で撮影しています。料理写真はほぼ100%光の入れ方で決まります。光量を稼ぐために窓際で撮影するのがいいでしょう。
料理写真は「逆光」で撮る、というのがセオリーなのですが、オススメは半逆光の角度です。つまり、窓を左手か右手にして、料理を撮影するということ。
机を窓際に移動させて、撮影します。iphoneのカメラでも光さえきちんと入っていればきれいに撮れるので、皿を持って部屋のなかをうろうろして、正解の位置を探しましょう。ただし、直射日光は影がつよくなってしまうのでNGです。
その場合はamazonでトレーシングペーパーを購入し、窓から下げて対応しましょう。
ただ、これはあくまでセオリーで、ときには強い光を料理に当てて色を出す場合もあります。しかし、これは上級編のテクニックという感じで、基本的にはバウンス(拡散)させた光を使ったほうがきれいに撮れます。
左側から光を当てるとこんな感じ。セオリーに従って逆光で撮ってももちろんOKだと思います。
これはiphoneで撮ったもので、逆光で撮影しています。瓶の手前に強い影が出ているのがわかりますか? このような場合には手前にレフ板を置くと影を和らげることができます。
レフ板とは光を反射させるための板のこと。市販されているスチレンボードで自作すると安上がりです。
スチレンボードはamazonの他、画材店や東急ハンズ、100円均一ショップなどで購入することができます。今回は東急ハンズでA4のスチレンボードを2枚購入しました。
140円×2枚です。
スチレンボードを重ねて、片側をガムテープなどで固定します。
これで自立するようになりました。光と逆の方向に置いて使います。
プロセス写真の場合、鍋のなかまで光が届かないこともありますが、その場合にもレフ板は便利です。自然光を使った料理撮影の弱点は日中しか撮影ができないこと。その場合にはストロボを使って対応します。
最近は安価なストロボが売られているので、試しに使ってみるといいでしょう。ちなみにぼくのnoteはほとんどこのストロボを使って撮影されています。ストロボを使う場合も窓際で料理を撮影するのと同じで、壁にストロボを向けて、反射させた光を使うようにします。(料理に直接光を当てるのはダメですよ)
夜中でもストロボを壁に当てるようにすればそこそこ撮れます。
ちなみにぼくの新刊「最高のおにぎりの作り方」の表紙写真も自分で撮りました。前作よりも写真のクオリティは上げたので、よろしければぜひ買ってください(←ストレートな宣伝でした)