基本の復習〜衛生管理その1〜
お店をやっている人であれば食品衛生責任者の資格をとるときに衛生法規(2時間)、公衆衛生学(1時間)、食品衛生学(3時間)の講習があったと思いますが、それ以外の人も食品と接するもの。この機会に一度、復習しておきましょう。
衛生や安全性を理解したい場合、よく参考にされるのが「大量調理施設衛生管理マニュアル」(生食発0616第1号 平成29年6月16日)です。それまでも調理衛生については営業者に対する指針として「弁当及びそうざいの衛生規範」などの各種の衛生規範や通知がなされていましたが、項目が多岐渡り「どうしたらいいかわからない」という問題もありました。それを解消するために作成されたのが「大量調理施設衛生管理マニュアル」です。
このマニュアルは同一メニューを1回300食以上又は1日750食以上を提供する集団給食施設などにおける食中毒を予防するために作成されたものですが、もととなっているのは食品が提供されるまでの間に発生するリスクを一つ一つ取り除いていく「HACCP(ハサップ、あるいはハセップと読む)」の概念です。そのため大規模調理施設だけではなく、中小規模調理施設、中小飲食店や福祉所、あるいは家庭にいたるまで参考になるので、一度目を通しておくといいでしょう。
冒頭に重要管理事項として
① 原材料受入れ及び下処理段階における管理を徹底すること。
② 加熱調理食品については、中心部まで十分加熱し、食中毒菌等(ウイルスを含む。以下同じ。)を死滅させること。
③ 加熱調理後の食品及び非加熱調理食品の二次汚染防止を徹底すること。
④ 食中毒菌が付着した場合に菌の増殖を防ぐため、原材料及び調理後の食品の温度管理を徹底すること。
の4点があげられています。食品衛生の基本の3原則は「持ち込まない」「増やさない」「排除する」です。いくつか抜粋しながら考えていきましょう。
まずは「持ちこまない」ということ。手をよく洗うのはもちろんのこと、調理器具も清潔なものを使います。最近では手洗いの重要性が周知されるようになりましたが、とにかく手洗いが一番効果的。
二次汚染についても気を使う必要があります。キッチンでは食材の管理を行う場所と調理スペースは分けますが、これは外から入ってきたものは基本汚染されていると考えるからです。これは家庭でも同じこと。調理台の上にスーパーの買い物袋や宅配されたダンボールなどを置かないようにしましょう。
飲食店などで食材の入ったダンボールをキッチンの床に積み上げている光景をたまに見かけますが、これもNG。作業スペースを汚染区域と非汚染区域にわけることが重要です。下処理は汚染区域(家庭であれば例えば玄関や居間)で行い、調理は非汚染区域(台所ですね)で行うようにします。
調理器具の使い回しは避けましょう。例えば魚肉用のまな板、包丁と野菜用は分けるのが無難です。実際、浅漬から腸炎ビブリオが検出されたケースがあります。これは魚を切ったまな板で野菜を切ったことで、起きた事故です。
まな板、ザル、木製の器具などは汚染が残存しやすいことが知られています。キッチンではよく味見用のスプーンを水が入ったポットに入れて使い回す、という光景を見かけますが、交雑汚染しやすいポイントです。少なくとも盛り付けと調理用の調理器具は分けましょう。家庭でも炒め物に使った菜箸と盛り付けに使う盛り箸は別のものを使うのが無難です。
このあたりは最近、焼肉屋さんなどで食べるための箸と調理に使うトングは分けて使ってください、と周知を徹底するようになったので、知識としてはだいぶ広まっているはず。調理時と盛り付け時に箸を変えると「洗い物が増える」というご意見をもらうことがありますが、洗い物が増えるのと、食中毒のどちらがいいのかは考えるまでもありません。
生野菜について
写真はイメージです
生野菜は菌が付着している可能性があるので、提供する場合は十分に洗浄し、必要に応じて次亜塩素酸ナトリウム等で殺菌し、流水で十分すすぎ洗いをします。
意外と危ないのは「冷やしきゅうり」のような「浅漬系の料理」です。きゅうりの塩水漬けは一般的ですが、ハサップ的な考えからはリスクが高い料理といえます。きゅうり自体には細菌はあまり付着してませんが、例えば浅漬けの素のような漬物液は加熱しないので、混入→増加する恐れがあり、現にきゅうりの一本漬けみたいな料理で毎年食中毒が発生しています。面倒でも皮を剥くか、事前に茹でて表面を殺菌するなどの対策をとり、保存温度にも気を配りましょう。
加熱食品の温度管理
加熱については中心温度75℃で1分間以上、貝類などは85℃〜90℃で90秒間以上が原則です。ノロウイルスが刻み海苔に混入していた事件などの影響から商業施設などでは中心温度85℃で1分間をルールとしているところもある、と聞きます。これは最初の三原則でいえば「排除する」の部分ですね。
中心温度計がないなら購入する必要があり、中心温度は三箇所からとるのが基本です。針はきちんと都度洗浄、殺菌するのも地味に重要。スチコンなどを使っている場合は芯温75℃に達したらそのままタイマーで加熱時間を伸ばすだけで大丈夫です。例えば唐揚げは中心温度65℃前後がおいしい範囲なのですが、これはすぐに提供する場合の話。例えばテイクアウトや作り置き、お弁当に入れるならこの温度はNGで、やはり75℃で1分を守る必要があります。
残念ながら絶妙に火が通ったピンク色の肉はテイクアウトではありえないのです。「75℃を守ると鶏肉はパサパサになってしまうがな」と思うかも知れませんが、そこが工夫のしどころです。例えば油淋鶏のようにタレにつけるというのもありですし、チキン南蛮風にソースを組み合わせるという手もあります。
良品計画のCafé&Meal MUJIはいち早くハサップ対応した飲食店ですが、唐揚げはチリソースマヨネーズで和えた状態で提供していました。こういうメニューを見ると「よく考えたなー」と感心してしまいます。ある程度はパサパサになりますが、ソースでしっとりさせるという発想です。つまりはこういうことで、オーバークックされた部分をカバーするための技術を発揮しましょう。
調理したものは素早く冷ます
これは「増やさない」に相当します。水分は大敵なので、食材は水気を切ってから保存する、熱いうちに容器に詰めると蒸気がこもって事故の原因になります。かならず冷ましてから詰めましょう。
調理済みの食品は、食中毒菌が増殖しやすい温度帯(約20℃~50℃)で放置せず、適切な温度管理をする必要があります。具体的には10℃以下又は65℃以上で保存することです。前日のカレーなんかは危険な料理の代表で、毎年のように食中毒が発生していますが、それは食中毒が増殖しやすい温度帯に長く放置されることがあるから。カレーなどは小分けして、氷水に当てるなどして素早く温度を下げましょう。
とりあえず今日はこんなところで。