スープの原型を感じさせるパンのスープ
昔のヨーロッパの一部の地方では、村の中心にパン焼き窯があり、そこで一週間分のパンをまとめて焼く、という風習がありました。そのためフランス料理には硬くなったパンを有効活用するレシピが多くあります。そもそもスープの原型は肉や野菜を煮た汁を硬いパンに注いでやわかくしたものですし、そういえば昨年の暮れに日本で展示されていたフェルメールの絵画『牛乳を注ぐ女』に描かれているのも硬くなったパンを鍋に入れ、そこに牛乳を注いでいる光景でした。
今日、ご紹介するレシピはフランス中西部、オーベルニュ地方の料理『La soupe au pain 』。野菜スープにパンを浮かべた郷土料理ですが、今回はオーベルニュ地方出身の星付きシェフ、パスカル・バルボのレシピをアレンジして、ややもったりとしたポタージュ風の仕上がりにしています。
パンのスープ
ライ麦入り食パン 1枚(8枚切り)
牛乳 100〜150cc
チキンスープ 200cc(固形ブイヨンなどを表示の分量より薄めに溶く)
バター 20g
パンはカンパーニュのような風味のあるハード系のパンを使うのが王道ですが、今回はライ麦がブレンドされた食パンタイプのものを使いました。他に全粒粉のパンなどでもいいか、と思います。
まずパンを170℃〜180℃のオーブン、あるいはトースターで20分、カリカリに焼きます。パスカル・バルボのオリジナルはかなりハードにパンを焦がすのですが、こちらのレシピでは焼き色を穏やかにしています。外国人は焼き色の味を好みますよね。
こんがりと焦げ目がつき、水分が抜けた状態が理想的です。もちろん、オリジナルのようにハードに焼いてもそれはそれで風味があっておいしいものですが。
しっかりと焼いてあるのでこんな風に手で割れます。
温めたチキンスープと牛乳、バターと一緒にミキサーにかけます。
パスカル・バルボのオリジナルレシピでは焼いた燻製ベーコンを牛乳とブイヨンで煮出し、そこに焼いたパンを加えてミキサーにかけ、ディジョンマスタード、ピクルスの酢少々で味を整えています。ブイヨンの分量ももう少し多めで、レストラン用の軽い仕上がり。こちらは牛乳を少し増やして、ブイヨンの量を控えめにして、スープ料理として成立するくらいの濃度に調整しました。
パンがつなぎになって、なめらかな状態です。最後に牛乳で好みの濃さに調整し、塩で味を整えます。好みで黒胡椒を加えるのがいいでしょう。
もったりとして香ばしく、かすかにパンを感じます。なにも言わずに提供して「これはなんのスープでしょうか?」と食べ手に考えさせるのもいいと思います。
パンをつなぎに使うのはめずらしいことではなく、むしろ古典的な技法。同じくオーベルニュ地方のシェフ、ミシェル・ブラスの厨房にはバターでカリカリになるまで炒めたパン粉があり、ソースのつなぎとして使われていました。(アンチョビが入ったパンのジュという魚料理用のソースはブラスの定番の一つ。ここで、いつか紹介します)古くなったパンは捨てるのではなく、こうして料理に応用していきたいものです。
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!