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鋳鉄鍋とステンレス鍋、どっちが保温できる?

一気に普及した感のあるル・クルーゼやストウブなどのホーロー加工の鋳鉄鍋。鍋マニアであるスープ作家の有賀薫さんもホーロー加工の鋳物鍋について「鉄鍋ですので機能としては熱伝導は悪いですが一度あたたまると蓄熱性が高く、塊肉で長時間煮込むポトフや煮豚などにぴったりです」と書いていますが〈他の鍋よりも「蓄熱性」に優れている〉というのが定説です。それは本当なのでしょうか? 

Kymosにステンレス鍋と鋳物の鍋の保温性能を比較した興味深い記事が載っていたので、自分でも調べてみることにしました。

実験のデザイン

鍋に1.5lの水を入れ、沸点まで沸かします。室温26℃の環境に1時間放置し、水温の変化を調べました。

ル・クルーゼは18cmのものを使用しました。

比較するのはステンレス多層構造鍋です。大きさが近く、手元にあったものを使用しました。値段にして約5倍ほどの価格差があります。

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温度をはかる関係上、鍋の隙間が多少できるので、ステンレス鍋(ジオ鍋)の特徴である蓋の隙間を水でふさぐ(ウォーターシール)という効果は望めません。蓋と水のあいだの容積もほぼ同等なので、条件としてはかなり近いですが、はたしてどの程度の差があるのでしょうか?

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どちらも99℃からスタートです。

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ちなみに使用した温度計ロガーはこんなふうに記録してくれます。

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一時間経過したル・クルーゼに入れた水の温度は58℃でした。

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一方のステンレス鍋に入っている水の温度は69℃でした。あれ? ステンレス鍋の方が蓄熱性が高いことがわかりますね。鍋の厚みや重みは鋳鉄のほうが厚く、重いのにも関わらず、です。

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グラフにするとこんな感じではっきりとした差が出ました。比較のために同じホーロー+鋳物の鍋であるストウブでも実験です。

ストウブは20cmのものを使いました。水の容量は同じ1.5lです。

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同様に100℃からスタートします。

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やや大きめの鍋ですが、1時間後は59℃でした。ストウブとル・クルーゼの蓄熱性はほぼ同程度とわかります。やはりステンレス多層構造鍋よりも蓄熱性は劣るようです。この差はどうして生じるのでしょうか。

この2つの鍋(18cmのル・クルーゼと18cmのGEO鍋)の表面積の違いはごくわずかです。蓄熱性について考える場合、一般に比熱×重さの値が基になります。重さは鍋の厚みとイコールの関係にあるので、板が厚いものほど熱容量は大きくなります。

それに加えて金属の比重も重要です。例えばアルミニウムは質量が小さいので、同じ板厚で比較すると他の金属よりも軽くなります。比熱が大きくても熱容量が小さいのはこのためです。

さて、ステンレス(比重 g/立方センチメートル 7.70)と鉄(比重 g/立方センチメートル 7.87)を比較すると、熱容量が大きいのは鉄です。さらに鋳物の鍋は分厚いのでこちらのほうが当然、有利なはずですが、結果はそうなっていません。金属の違いよりも水の熱容量(6.27kj/K 1.5l)のほうがはるかに大きいからです。

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鍋の蓋の影響はどうでしょうか? 鋳物の分厚く重い蓋とステンレス鍋蓋を比較すると前者のほうが有利なはずです。しかし、結果はそうなっていません。試しにガラス蓋のフィスラーの鍋でも実験してみました。フィスラーの鍋は貼り底といって底だけが三層で、あとは単層という構造です。(底だけにステンレスを貼るのはコストを削減し、鍋を軽くするためでしょう)ジオ鍋よりは蓄熱性は劣ると考えられます。

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結果は63℃。やはりジオ鍋よりは蓄熱性が劣りますが、ル・クルーゼやストウブよりは優れているという結果です。スープや煮物に限っていえば鋳物よりもステンレス鍋のほうが保温できるのです。

確認のために22cmの大きなGEO鍋でも比較してみました。

こちらの鍋はさきほどの鋳物(ル・クルーゼ&ストウブ)よりも一回り大きな鍋です。鍋が大きければ外気によって冷やされる面積も当然大きくなるのでより早く冷めるはず。

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しかし、結果は63℃。これだけ大きな鍋を使ってもなおステンレス鍋のほうが蓄熱性が高いという結論になりました。

ちなみに冒頭にあった「熱伝導率は悪い」という指摘についてですが、ステンレス鍋と鋳鉄鍋を比べると熱伝導率が悪いのはステンレス鍋の方です。鉄の熱伝導率は80.4(W/(m・k))に対してステンレスは(ニッケル系-SUS304)16.3とじつに4倍もの差があります。ステンレス鍋のほうがお湯が沸きづらいはずです(実験してないのでそのうちやります)

熱を伝えやすいということは逆もまた真なりです。鋳物は熱伝導率が高いので、外の空気によって冷やされるのも早かったと考えられます。Kymosのマーティン・レルシュは鋳物が冷めた理由を熱伝導率だけではなく「金属の放射率の違いにあるのでは」と推測しています。半分くらい頷ける推測です。これはホーロー鋳物鍋の内側にアルミホイルを張って実験する必要がありそうです。

もちろん、高価なホーロー鋳物鍋には「デザイン性が高いのでそのまま食卓に出せる」などのメリットがあります。しかし、ポトフやスープなどの温度を高く保つという目的(例えばおでんを作る時、火を止めた状態の予熱で味を染み込ませる)を考えるのであれば高価なホーロー鋳物鍋を購入する必要はないのかもしれません。とはいえ、僕はホーロー鋳物鍋が好きなので、いっぱい持っていますし、これからも使いますし、買うとは思いますが。

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