見出し画像

おいしいトーストを焼く為にはパンの耳を切り落とす

トーストとコーヒーは朝食の定番。

画像1

このところの食パンの傾向は水分の多いモチモチ型。そのためにパン生地の一部を湯種(水ではなく湯でこねることでデンプンを一部糊化させ、もちもち感を引き出す技法)に変える方法もよく行われています。この湯種法の食パンはちょっと置いておいたくらいでは味が劣化せず、しばらくはおいしく食べることができます。

それでも1〜2日も経つと味は落ちてきます。なぜ古くなったパンはパサパサになってしまうのでしょうか? 水分が蒸発して乾いてしまった、と考えがちですが、厳重にラップで包み、袋に入れておいても、パンはやはり硬くなります。パンが固くなるのは水分の蒸発だけではなく、デンプンの老化やグルテンの硬化によるものだからです。

画像2

一度、老化、硬化したパンも再加熱することで「トースト」という料理として蘇らせることができます。トーストすることでパンになにが起きているのでしょうか?

パンを熱すると芯温60℃〜70℃で老化(β化)したデンプンが再度α化し、食感がソフトになります。それとともに表面温度が150℃〜160℃になることで、メイラード反応が進み、焼色と香りが生まれます。最終的に190℃〜200℃で糖質がキャラメル化し、焦げ目がつき、カリッとした香ばしさが出てきます。

工学院大学の山田昌治教授によればトーストの味の秘密は「水分の移動にある」とのこと。山田先生はそれを「熱量学のエントロピー増大の法則によるもの」と独特な表現をされていますが、ざっくりと解説するとトーストを焼くと表面が高温になり、内側は冷たい状態になります。表面と内部に温度差の勾配が生まれるので、食パンの内側ではその温度を均一にするために、外側の温まった水分が内側に移動します。その結果、焼く前よりも中心部分の水分が増え(全体量では減少しますが)、あのふっくらとした食感が出る、というメカニズムです。

画像3

いずれにせよ、完璧なトーストを焼くのはなかなか難しいものです。いくつかの要素に分けて考えていきましょう。

まずはトースター選び

トースターには大きく「ポップアップ型」と「オーブントースター型」の二種類があります。

ポップアップトースターはパンを2つの熱源で挟み込むような形で加熱するもので「熱源が近い」が特徴。その分、高温短時間で焼け、パンの水分を逃さず、おいしく焼くことができます。弱点は放射熱による加熱が主なので冷凍食パンの焼き直しは苦手なことや、食パン以外のパンの温めができないこと。

食パン以外のパンやグラタンなどの調理にも使いたい、ということで日本で普及したのがオーブントースターです。

オーブントースターはヒーターからの放射熱と、その熱が庫内で空気の循環を生むことで生まれる対流熱で加熱される仕組みです。オーブントースターには安価なものから効果なものまで様々な製品がありますが、残念ながら値段と味は比例します。

その理由の一つは熱源です。リンク先の商品のような安価なオーブントースターには石英管ヒーターという熱源が使われているのですが、石英管ヒーターの熱は食品表面の熱吸収が早いのが特徴で、短時間で焼き色をつけたい常温の食パンのトーストには適しています。しかし、中心まで熱が届かないことがあり、冷凍食パンを焼くと「外が焼けても中が冷たい」という問題が起きがちです。

ちょっと高級なオーブントースターには透過率が高い放射熱を発するハロゲンヒーターやカーボンヒーターといった熱源が搭載されていたり、また遠・近赤外線ヒーターを併用することで、表面から中心まで効率よく熱し、加熱時間を短縮するとともに、均一な加熱を実現しています。また、庫内の形状や材質もそれぞれ工夫されています。

熱源として最も優れているのはグラファイトです。短時間で高温になり、均一に熱を与えることのできるグラファイトは結果として食パンの水分蒸発量を減らし、表面はカリッと、なかはふっくらという食感が実現できます。

水蒸気を一時的に庫内に充満させることで瞬間的に熱容量を増やし、伝熱効率を高める方法を採用しているトースターもあります。おなじみのバルミューダのスチームオーブントースターがこの方式。

こちらの商品のように「庫内を密閉して、食パン自体の水分で熱容量を増やす」というアプローチもあります。この製品は面で加熱するパン専用の加熱器具という意味ではポップアップ式トースターの進化の延長線上にあるか、と思います。

画像4

「ようは高温、短時間で焼けばいいわけだから魚焼きグリルでいいじゃないか」という意見もあります。たしかにそのとおりです。魚焼きグリルは加熱後1分で300℃の高温になり、高温短時間の加熱が可能です。

魚の匂いがつくのでは……と心配する方もいますが、加熱中は素材から水分が出るので、加熱しているあいだは食材に匂いはつきません。(そのまま置いておくと匂いを吸います)弱点は熱源が近く、温度調整をしてくれないので焦げやすいこと。熱源が近いので、冷凍食パンには不向きです。

さて、色々なオーブントースターを見てきましたが「なにがいいの?」という答えはなかなか難しいことがわかります。理屈でいえばグラファイトヒーターのオーブントースターがおいしく焼けると思いますが、冷凍食パンや油分の多いクロワッサンなどにはバルミューダオーブントースターという手もあります。今回例に上げた製品だけではなく、最新式のオーブントースターは庫内温度や焼き加減を調整するプログラムが搭載されています。

そういうオーブントースターは高すぎるよ、という方には安価なトースターという選択肢ももちろんありです。冷凍食パンを食べないのであればそれでもいいでしょう。それぞれに一長一短がありますし、キッチンでの置き場所の問題もあるので、魚焼きグリルで事足りる、という選択肢もありです。

画像5

今回は性能としては最も安価なオーブントースターに近いトースト機能がついているオーブンを使います。高価なトースターを買わずとも、いくつかのポイント守るだけで、十分においしいトースターを焼くことができます。

ポイント1 トースターは予熱する

画像6

グラファイトヒーターのような特殊な熱源や庫内に蒸気を充満させて熱する方式のオーブントースターではない限り、オーブントースターは1分〜2分程度予熱してから使うのが原則です。熱源や庫内を十分に温めておくことで、高温短時間で焼くことができます。

ポイント2 表面を霧吹きで加湿する

画像7

高価なトースターを使う場合には必要のない工程ですが、普通のトースターで焼くのであれば事前にパンを加湿しておくのもポイントです。均一に水分を与えるために霧吹きは目の細かいものを使うのがコツ。

写真では無印良品のスプレーボトルを使っています。食品用ではないので、大きな声では薦められませんが、理屈的にはアルコールなどを詰めない限りは問題なく使うことができます。

ポイント3 パンの耳を切り落とす

画像8

これは工学院大学の山田昌治教授が考案した方法で、パンの耳を切り落とし、白い部分と耳の部分を分けて加熱するものです。

パンの耳は火の通りが悪く、熱を吸収してしまうので、普通に焼くと焼き時間が余分にかかってしまいます。そこで耳を切り落とし別々に加熱することで、クラム(食パンの白い部分)には早く火が通り、同時によく焼いたほうがおいしいパンの耳が効率よく焼ける、という理屈です。

これは面白い、と実験してみました。もともと熱効率がいいバルミューダのような水蒸気を利用した加熱方法の場合ははっきりとした違いはわかりませんでしたが、安価なトースター(ここではオーブンについているトースター)を使用する場合にはたしかにクラム部分がしっとりと仕上がりました。試してみる価値はありそうです。

画像9

最後にバターはたっぷりと。トーストのバターは塗るものではなく、載せるものです。(個人的な意見です)写真のバターはやや厚く、大きすぎますが、薄く切ったものを香ばしく焼けたトーストにのせ、溶け切らないうちに食べると、口に入れたときにバターが溶けるので、香りが一番、立ちます。たっぷりのバターこそがトーストをもっともおいしくするのですから、ケチらずいいものを使いましょう。

最後に宣伝です

こちらのnoteから一部をまとめた『最高のおにぎりの作り方』という本が3/30日にKADOKAWAから刊行されました。タイトルにおにぎりの作り方とありますが、レシピが一杯載っています。グラタンなどnoteに未掲載のレシピもありますし、ちょっといい製本を採用しているので、ぜひお手にとっていただければ、と思います。

おにぎり再校修正0225(ドラッグされました)

おにぎり再校修正0225(ドラッグされました) 2

この本についてはまた別途noteに書きますね。それではまた。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!