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肉感とやわらかさを両立させた究極のハンバーグの作り方

ハンバーグのレシピは何度も作ってきましたが、今回はニューバージョン。

こちらは肉肉しいミニマルハンバーグ。

cakesに載せたハンバーグも悪くないのですが「ちょっと硬い」という声がありました。そこで今回はご飯と相性のいい「やわらかさ」を目指すことに。また前回は材料に「黒毛和牛の挽き肉」と指定したのですが「そんなの手に入らない」という声を受けて、スーパーで普通に売られている輸入牛挽き肉を使うことにしました。

究極を目指すレシピはやれ「ゼラチンを加えればしっとりする」「いや、お麩を……」という具合に材料が増えがち。僕が目指すのは足し算のおいしさでも引き算の美学でもなく、材料ごとの役割を見ながら、レシピを見直すこと。そういうわけで出来上がったレシピがこちら!

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究極のハンバーグ きのこソース
〈ハンバーグ〉
牛挽き肉  200g
牛乳    大さじ2
塩     2g
砂糖    2g
玉ねぎ   1/4個
生パン粉  10g
胡椒    適量
ナツメグ  少々(あれば)
〈きのこソース〉
しめじ   1/2パック
舞茸    1/2パック(もしくはどちらかを1パック)
醤油    大さじ3
みりん   大さじ1
砂糖    大さじ2
酒     50cc
片栗粉   小さじ1

ソースのレシピがあるのでちょっと材料が多いですが、主要な食材は「挽き肉」「玉ねぎ」とシンプル。

一 硬い問題の解決

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硬い問題を解決するためには二つの方法があります。一つは「いわゆるつなぎ」を増やすこと。パン粉などのつなぎはタンパク質と違って加熱しても収縮しないので、やわらかさを保つことに貢献します。あるいは卵を加えても、卵は肉ほど強く収縮せず、さらには水分を抱え込むので、やわらかさを保つことに貢献します。

しかし、つなぎを増やすと単純にハンバーグがおいしくなくなりますし、挽き肉200gの場合の卵の量の目安は1/2個になってしまい「残った卵はどうするんだ!」という問題が出てきます。

僕のハンバーグレシピの基本は「卵を入れない」ことです。理由としてはハンバーグを作る際の失敗パターンとして「肉種がやわらかくなりすぎて整形できない」というケースがありますが、これは卵白の量が多すぎたことが原因。他に卵を入れると「卵黄に含まれるレシチンが脂肪分を乳化させ、口当たりよくまろやかになる」という主張もありますが、乳化状態は加熱すれば壊れるので効果は疑わしいところ。「卵がつなぎになってバラバラの挽き肉をつなげる」という意見もありますが、肉同士を結着させているのは「肉のタンパク質」です。ソーセージには卵が入っていませんが(昔の安物は卵を入れて増量していましたが)ちゃんと繋がってますよね? ふわふわ感を簡単に出せるのはメリットですが、肉の味が薄まるというデメリットがそれを上回るので、僕のレシピでは卵を入れていません。(でも、別に入れてもいいんですよ)

2つ目の方法は水分を加えることです。今回はこちらの方法を採用し、ハンバーグをやわらかくするために牛乳に塩と砂糖を溶かし、牛挽き肉にふりかけ、冷凍庫で10分間冷やすことにしました。いわゆるブライニング(塩水処理)の工程です。砂糖が入った塩水に漬けることでタンパク質のミオシンを変性させてしっとりとした食感にし、さらに肉に水分を含ませます。水分を肉に練り込む技法はソーセージ作りでは一般的です。

挽き肉は面白いほど水分を吸い、焼き上がりがやわらかくなりますが、肉の味が薄くなること、ハンバーグの場合はソーセージと違って肉汁の流出を防ぎ止める皮がないので、焼いているあいだに旨味が水分とともに流れ出てしまう、というデメリットもあります。そのデメリットを踏まえてもなお、ブライニングを行うことにした理由は以下の二つ。

一 牛乳に含まれるラクトン香をつけるため

和牛肉と輸入牛の違いは色々とありますが、そのなかの一つに和牛の脂肪に含まれているラクトン類という香気成分があります。ラクトン類は和牛特有の甘い香りのもと。ラクトンは牛乳にも含まれているので、それを浸透させることで「っぽい」香りをつけます。

二 焼いている時に浮かんでくるブヨブヨを抑えるため

ハンバーグを焼いていると表面にブヨブヨとしたアクのようなものが浮いてくることがあります。タンパク質の一部で、食べても無害なのですが、見た目に美しくありません。塩水につけることでこのブヨブヨの発生を(完璧ではないのですが)抑えることができます。

二 玉ねぎの処理問題

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cakes連載は編集者が毎回、試作をし、結果を送ってくれるのですが、玉ねぎのみじん切りというのは意外と難しいものなのだな、と気付かされました。僕のレシピはさっぱりさせるために生の玉ねぎを入れるのが基本なのですが、玉ねぎの周りではタンパク質の収縮が起きないのでみじん切りが大きすぎると焼いている時に崩れる原因になってしまいます。

そこで今回は玉ねぎをすりおろすことにしました。プラスチック製のペラペラのおろし金だとちょっと大変なのでセラミックかステンレス(写真は銅です)製のしっかりとしたおろし金を使えば、玉ねぎをすりおろすのは簡単。

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あとはすべての材料を混ぜるだけ……なのですが、最後の問題が浮上します。それは肉をよくこねるか、こねないか問題です。

三 肉はよくこねるべきか、こねないべきか問題

ハンバーグは「肉を捏ねるべき派」と「あまり捏ねない派」に分かれます。肉に塩を加えて練るとミオシンというタンパク質が溶け出し、これに火を通すと凝固し、ゲルの網目構造をつくります。つまり、肉を練る目的は内部に抱え込む肉汁を増やし、ジューシーな仕上がりにするためです。

デメリットは肉を捏ねると挽き肉の粒感がなくなり、いわゆる「肉らしい風味」が弱くなること。手で捏ねる場合は特にこの傾向が顕著で、肉らしさが弱くなって、すり身のような食感になってしまいます。また、網目構造は保水性を向上させますが、強くなりすぎると加熱した時に縮んで、ちょうどスポンジを絞るように肉汁が流出してしまうので、食感が硬くなります。僕のようにこれを嫌う人は「肉はあまり捏ねないほうがいいですよ」と言うのです。

とはいえ、肉を捏ねたほうが整形しやすいですし、食べた時に「バラバラにならない」というメリットも。そこで解決策は……

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肉種の半分だけをよく捏ねることです。肉の結着力を上げるためには低温も重要な要素なので、温度を上げないために冷凍庫で肉(とボウル)をよーく冷やしておきました。利き手で握りしめるようにして、肉を捏ねます。

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掴んでは握ることを20回が目安です。できれば手も冷やしておきましょう。

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最後に全体をさっくりと混ぜます。これはいわば捏ねる派と捏ねない派のいいとこ取り。挽き肉の粒を滑らかな肉だねが包み込むことで、成形もしやすくなります。

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2人前の分量なので二等分にします。1個140g前後です。この時、できるだけ表面を滑らかにすることで、焼いている最中に割れたりしません。また、ミオシンの膜が肉汁を閉じ込めてくれる、という効果もあります。真ん中は〈凹ませません〉。凹ませるとその部分だけ焼き色がつかなくなり、おいしさが落ちます。

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分量外のサラダ油小さじ1を敷いた中火のフライパンで焼きはじめます。フライパンの表面温度の目安は180℃。焦げ目をつけるための温度です。目安は2分〜2分30秒。

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片面に焦げ目がついたら火を限界まで弱火にして、裏返します。蓋をして蒸し焼きにします。目安は4分。4分経ったら、蓋を開け、火を強めたところに日本酒小さじ1を加え、蓋をして火を止めて、さらに3分間休ませます。最後の日本酒はダメ押しの加熱です。ハンバーグは多少焦げても問題なく食べられるので、見た目に影響する表面になる部分の焼色だけきれいにつけば後は弱火でじっくりと焼いていきましょう。

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ハンバーグを盛り付けたらフライパンを洗わずにきのこ類を軽く炒め、醤油大さじ3、みりん大さじ2、砂糖大さじ2、酒50cc、片栗粉小さじ1を混ぜ合わせたものを加え、混ぜながらよく加熱し、アルコール分を飛ばします。

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出来上がり。ご飯とあわせるべくちょい塩気が濃い目のソースです。醤油は好みで加減してください。味が濃いな、と思ったら大根おろしを添えるとバランスがとれます。

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出来上がり。牛乳を染み込ませることで驚くほどソフトな食感を実現しました。基本的に材料さえ揃えておけば一気呵成に仕上げれるので、手間もかかりません。この究極のレシピシリーズは究極の材料を使うのではなく、究極の(というか合理的な)作り方を目指すものですが、ハンバーグは登るべき山がわかりやすい料理だと思います。

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樋口直哉(TravelingFoodLab.)
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!