基本のソース〜ジュドヴィアンド〜
肉料理に使う基本のソースです。これをベースに刻んだエシャロット+黒胡椒でスパイシーにしたり、わさびを効かせたり、、、という具合に展開が効きます。
作り方としては牛すじ肉を炒めたところに醤油を加えて、メイラード反応を起こし、それを煮込んでソースにしていく手法。醤油ははじめの段階で加えているので香りが揮発し、最終的にはあまり残りません。
僕が醤油を鍋肌で焦がしてからソースを仕立てていく手法を学んだのは、クイーンアリスの石鍋裕シェフの講習会でした。考えてみればもう二十年以上前の話になります……。
そのときは特になんとも思わなかったのですが、今になってみると肉を小さく切ることで加熱時間を短くして風味を残し、醤油を使ってフォンドボー的なメイラード反応をソースに溶かし込む……という現代料理のお手本のような作り方です。なかなか家庭ではわざわざソースを作るという機会もないでしょうが、作っておけば冷凍もできるので僕流の作り方をご紹介します。石鍋シェフは丸鶏からとったブイヨン・ド・ヴォライユを使っていましたが、僕のバージョンは水+圧力鍋を使い、コストを下げつつ、風味を凝縮させることを狙っています。
牛すじ肉にはコストが安く、味とゼラチン質の両方が出る優秀な食材。鮮度が悪い場合は湯通し、あるいは軽く水洗いしてから使いますが、匂いがなければそのまま加熱して大丈夫。
味を出やすくするために包丁で細かくカット。
中火にかけ、少量の油を馴染ませた、鉄のフライパンで炒めていきます。
ここは味を作っていく部分なので、辛抱強く焼き色をつけていきましょう。
途中でミルポワに切った玉ねぎとにんにく1片を投入。さらに炒め続けます。甘みがほしければ一緒にニンジンを加え、さらに香りを良くするにはセロリも入ります。このあたりはコストとの兼ね合いといったところ。
潰したにんにくと少量のトマトペーストを加えてさらに炒めます。オリジナルのレシピにはトマトペーストは入っていなかった気もしますが、コクと色が出るので、僕は使っています。
醤油で鍋底をデグラッセ。(デグラッセ=液体で焦げを溶かし込むこと)
圧力鍋に移します。
フライパンに水500mlを注ぎ、もう一度デグラッセ。鍋底についたうま味をこそげ取ります。
圧力鍋に加えます。ここでタイムを入れてもいいでしょう。
強火にかけて圧がかかったら弱火に落として20分間加熱。
こんな状態になります。ザルをかませてボウルに濾し入れましょう。ちなみにこの状態だと牛すじ肉にはかなりのうま味とゼラチン質が残っています。選択肢は2つ。
二番の出汁をとる→ソースの出来上がりが少し増えます
別の料理に転用する
今回は2にしたので、その経過は省略。(ちなみに大根と煮ました)
冷蔵庫で冷やすと脂肪分が固まるので、スプーンで除去しましょう。この脂は牛のおいしい脂なので、小麦粉と混ぜてルーにしてカレーに入れるのが賢い使い方。
鍋に移して火にかけると、まだシャバシャバの状態です。
水溶きコーンスターチでリエ(とろみをつけること)します。垂らしたときに多少のとろみがある程度に留めたいので、量は慎重に。
デンプンは経済性を考えた選択肢で、あまり煮詰めることなくとろみをつけることができます。同時に保存や再加熱によって風味が飛んでしまうのを抑えられるのがメリット。高濃度のゼラチンでもとろみはつくのですが、デンプンを使ったほうが仕上がりは軽くなります。このあたりがヌーベルキュイジーヌ以降にデンプンでとろみをつける手法が復活した理由でしょう。
この段階で薄く味付けしておきますが、うま味が弱ければ少量の顆粒ガラスープで補います。酵母エキスで味を補強するイメージです。今回は小さじ1/2程度入れました。
出来上がり。分量は150ml程度……一皿あたり大さじ2程度使うとして、5皿分といったところ。倍量ぐらい一度に作った方が作るのは楽です。
ゼラチン分が多いので、キューブ状に冷凍しておけば溶かすだけで使えます。家庭ではこんな使い方が便利かもしれません。今日はかんたんなステーキを作ってみましょう。
付け合せの野菜を準備します。まずはスナップエンドウ。筋をとり、歯ごたえが残るやわらかさに茹でます。
冷水にとって急冷してから水気を充分に切っておきます。
同様にブロッコリー、カブ、ニンジンも下茹でします。提供直前に鍋に入れ、少量の水、塩、オリーブオイルまたはバターを入れ、火にかけて温めますが、レンジに一度かけて温めておいてから水、オリーブオイル、塩を鍋で絡めた方が効率はいいです。
肉の準備は完了。休ませているあいだにソースと付け合せを温めます。
付け合せを皿に盛ります。濃い緑の野菜(今回はブロッコリー)薄い緑の野菜(今回はスナップエンドウ)白い野菜(今回はカブ)赤い野菜(今回はニンジン)という具合に、色を数種類組み合わせるとふつうの野菜を使っても見栄えがします。
ソースに塩、胡椒で味付け付け合せの野菜がみずみずしいので、味付けは強めで大丈夫。胡椒を利かせるのもポイントです。もう一度、とろみもチェックして、足りなければ少量のコーンスターチでとろみをつけるか、バターを入れるとリッチなとろみがつきます。
ソースをかけます。
出来上がり。好みでステーキの上に粗挽きした胡椒を振ってください。This is フランス料理っぽい仕上がりになります。非常にあっさりとしたソースですが、あるとないとでは大違い。やや濃度が足りないと思われたら刻んだエシャロットや玉ねぎなんかを炒めて加える手もあります。固形分が入るとソースを食材に絡めやすくなるので。
あわせる素材は牛肉だけではなくて、ソテーした鶏肉でも豚肉でもいいのです。ベースさえ作っておけば仕上げに刻んだしそを混ぜる、あるいはトリュフペーストを加えるなどアレンジは自由自在。
忙しい店であれば付け合せの野菜とこういったソースを共通で用意しておき、牛ステーキ、豚肉、鶏肉という具合にメイン食材を変えるとバリエーションが出せます。こういったソースを見るとフランス料理は鍋で食材を焦がし、それを煮溶かして味を作っていく、というのが基本だとよくわかります。
このソースはワインが入っていないので、酸味がありません。こちらのnoteで紹介している赤ワインソースのレシピもひき肉→すじ肉に変えてもいい、というわけです。
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!