調理テクニック紹介〈チョコレートのキャビア〉
球状化は点滴した液体を膜のなかに閉じ込めるテクニック。具体的にはアルギン酸ナトリウムをカルシウムと反応させて膜をつくります。このテクニックにはアルギン酸液をカルシウム溶液に落とす〈球状化〉とカルシウム溶液をアルギン酸液に落とす〈逆球状化〉の2つのアプローチがあります。
逆球状化のテクニックは以前にも紹介しているので、今回は球状化のテクニック。こちらは作り置きが利かないので、個人的には事前に仕込める逆球状化のテクニックのほうが好きですが、一応、抑えておきましょう。
アルギン酸ナトリウムについて
アルギン酸Naは海藻から抽出される多糖類(マンヌロン酸とグルロン酸という糖が連なっている)です。増粘剤やゲル化剤、乳化剤として広く使わていますが、我々におなじみなのは昆布のヌルヌルです。酸で抽出したあと、残りの成分をとりのぞいて、アルギン酸にしたあと、それをアルカリ溶液で中和するとアルギン酸ナトリウムになります。
アルギン酸ナトリウムは球状化に使う他、食品工業の世界でビールの泡を安定させるためにも使われます。低濃度のアルギン酸ナトリウムは料理の粘性を高め、とろみづけになります。カルシウムと反応するので、牛乳や生クリームに用いると粘性が高くなりすぎるので注意してください。
注意点は以下の通り
アルギン酸溶液は液体に対してアルギン酸0.5%が目安。スフィアマジックという溶けやすい製品(この場合は1%が目安)も売られていますが、いずれにしても溶けにくいのでミキサーで撹拌し、冷蔵庫で冷やすなどして空気を取り除いてから使います。
この濃度が厄介で、アルギン酸に濃度がありすぎると口に入れたときの〈はじける〉効果が弱くなってしまいます。使用量は少ないに越したことはないのですが、量があったほうが安全。このあたりは試作しないとなんとも言えません。
また、弾ける効果を期待すると風味が強い液体がベター。ただし、アルコールは溶けにくいので、しっかりと溶かすようにしましょう。時間をかけて水和させれば大丈夫です。ただし、酸の強すぎる=PH3.6を下回る液体には使えません。酸の強い溶液に使いたい場合は中和して使うしかありませんが、そうすると風味が損なわれます。
もうひとつ使えないのはカルシウムを多く含む食材です。カルシウムと反応させて膜をつくるわけですが、カルシウムを含む材料にアルギン酸を入れたらすぐに反応してしまいドロドロになってしまいます。(ヨーグルトのスフィアで紹介したようにこの問題は逆球状化のテクニックを使えば解決します)アルギン酸を混ぜた溶液は冷蔵庫で3〜4日保存が利きます。
カルシウム溶液
カルシウム溶液には塩化カルシウムや乳酸カルシウムが使われます。塩化カルシウムには苦味があるので、球状化したあと、水で洗い流してから使います。
水 1L
塩化カルシウム 10g(または乳酸カルシウム)
これもミキサーで溶かし、冷蔵庫で保存します。塩化カルシウム濃度は2%と書いてある本もありますが、1%で充分です。使っていくうちに反応が弱くなってくるので、ある程度の量をまとめて作っておくと便利です。
チョコレートのキャビア
過去記事のように大きな丸をつくる(ラビオリ)のは比較的簡単ですが、小さなつぶつぶ〈偽キャビア〉をつくるのは結構大変です。
寒天でキャビアをつくったとき(こちらは弾ける食感はありません)は注射器を使って一滴ずつカルシウム溶液に落としましたが、ある程度の量をつくるとなると時間がかかりすぎます。そこで登場するのがRapid caviar Makerです。
昨日、紹介したモダニストパントリーで個人輸入することができます。(日本で買うとなぜか法外に高い価格がついていますがそれほど高価なものではなありません)
今、販売されているものは新しいパッケージになっていますが中身は一緒です。
この上の道具がRapid caviar Makerです。Kitを買うと必要な素材もセットになっています。左からクエン酸ナトリウム、塩化カルシウム、アルギン酸ナトリウムです。ちなみによく間違う人がいますが、クエン酸とクエン酸ナトリウムは別の物質です。(クエン酸は酸性ですが、クエン酸ナトリウムはアルカリ性)クエン酸ナトリウムはクエン酸+水酸化ナトリウムの塩です。水酸化ナトリウムが強塩基であることはみなさんご存知の通り。クエン酸しかない場合は重曹と混ぜると中和されるので代用できます。
使い方は簡単。1%のアルギン酸を溶かした溶液を蓋になっているトレイに張ります。
ノズルがついている容器をかぶせて、注射器を引きます。液体がなかに吸い込まれるはずです。あとはカルシウム溶液に落としていくだけ。
注射器が一杯並んでいるようなものなので、一気にたくさんの粒々をつくることができます。それではチョコレートのキャビアを作っていきましょう。
水 200cc
アルギン酸ナトリウム 1.8g
クエン酸ナトリウム 0.2g
グラニュー糖 40g
ココア 20g
アルギン酸ナトリウム溶液は少なくとも2時間前につくっておきます。
作り方は簡単ですべての材料をミキサーにかけるだけです。
ここから水和(アルギン酸ナトリウムを水に溶かす)ために冷蔵庫で1時間以上冷やします。この工程で空気も抜けます。急いでいる場合は真空包装機にかけますが、やはり水和には時間がかかります。さきほど紹介したスフィアマジックという商品をつかえばこの時間をかなり短縮できます。
キャビアメーカーに溶液を吸わせたら、カルシウム溶液に落としていきます。
30秒も待てば固まります。ここであまり長くつけすぎると膜が硬くなってしまいせっかくのプチプチ感がなくなってしまうので注意。形の綺麗さがいまいちですが、これは溶液を落とす高さと濃度で決まります。ちょっと慣れが必要です。
水で2回すすぎます。このあいだにも反応は進むので、できるだけ早く提供するのがベター。
形を保ったまま保存したい場合はサラダ油のなかに入れてしまいます。油は水とは混ざらないので味が薄まることがありません。しかし、反応は徐々に進むので時間の経過とともにプチプチ感は落ちていきます。他に使い方としてはきゅうりのスープをつくってトマトのキャビアを浮かべるなど。
逆球状化のテクニックを使えば時間が経っても中身は液体のままです。そう考えると通常の球状化のテクニックを使う機会はあまりない、、、かもしれませんが、とりあえず基本となったテクニックなので、習得しておきましょう。
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!