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かきたま汁の科学
先日のイベント(新刊記念イベント「料理家たちのふだんのごはん」)で久しぶりにかきたま汁を作りました。味わってみたところ、やっぱりおいしい。リンク先に有賀さんのレシピがまとめられていますが、基本の味の大切さを見直したので、自分でもレシピを書いてみました。
三つ葉のかきたま汁(2人前)
出汁 400cc
醤油 小さじ1
塩 小さじ1/3(2g)
片栗粉 4g + 水小さじ1
卵 1個
三つ葉 1/2束 (余った三つ葉はおひたしにします)
有賀さんとは塩と醤油の割合が異なります。総塩分量はほとんど同じなのですが、有賀さんバージョンが醤油が少なく塩が多めで、ぼくのバージョンが醤油が多くて塩が少ない配合です。ま、このあたりは好みですね。
今回は三つ葉を使います。具材によってかきたま汁は作り方が微妙に変わってくるのですが、共通するポイントは〈片栗粉でとろみをつけてから卵を入れる〉ということ。
出汁は鰹(今回はマグロ節)と昆布の合わせ出汁を使います。出汁が薄い場合はみりんを加えて、味を補うとおいしくできます。卵が入ったお椀の場合は多少甘めの吸い地(汁のことです)のほうがバランスがとれるので。
卵は白身と黄身が完全に混ざるまで溶いておきます。
出汁が沸いたら、弱火に落とし、塩と醤油で味をつけます。水溶き片栗粉を投入しますが、左手で片栗粉を注ぎつつ、お玉を右手に持ってかき混ぜるようにします。
そこに卵を投入していくわけですが、昔ながらの作り方は穴杓子を使う方法。穴杓子っていうのはこういう形の茹でた野菜を引き上げるときなどに使う道具です。
この道具を使うと糸のように細く卵を溶き入れることができます。
網杓子でも同様に使えます。アク取りみたいな目の細かい網だと卵が通らないので、使えません。その場合は菜箸に伝わせるようにして、細く流していくというやり方になります。一つの道具がなくても方法だけ知っておけばいいのです。
少し火を強めて、必ず沸いたところに卵を入れます。今回は三つ葉が具材なので、ちょっと穴杓子の位置は低めです。
3cm長さに切った三つ葉を入れて、火を止めます。わりと低めの位置から卵を投入すると三つ葉と同じくらいの大きさ、薄さに卵が広がり、固まります。逆に具材をなにも入れず〈吸い地を味わせたい〉という場合は高めの位置から卵を投入して、糸のように細い卵が散った状態をつくるのがコツ。何事も具材とのバランスです。
吸い地には吸口(薬味)がないと日本料理として成立しません。春なら山椒、冬ならゆずという具合になんでもいいんですが、かきたま汁には生姜のすりおろしがよくあいます。上品に仕上げるなら絞り汁を使いますが、仕上げに加えることで味が引き締まります。
ほかには胡椒なんかも吸口としていいですね。
卵が広がって沈まないのは片栗粉を入れているから。片栗粉のデンプンが網目構造をつくり(=とろみ)そこに卵が引っかかるので、均等に広がり沈まないのです。片栗粉の量は全体の 0.5〜1.5%の範囲が目安。デンプン濃度が低すぎると網目があらくなるので卵がしずみ、逆に高すぎると卵が浮いてしまいます。デンプンの性質を使いこなすことでかきたま汁は成立しているのです。
かきたま汁に薄くとろみをつけるメリットは他にもあります。それは〈冷めにくい〉ということ。とろみをつけているために嚥下しやすいので高齢者向けの料理でもあります。そういえば以前、病院食の献立を作成している管理栄養士の先生から「かきたま汁はみそ汁に比べると残食率(食べ残しのこと)が低い」と聞いたことがあります。嚥下の問題もあるでしょうが、地域差があるみそ汁と比べてかきたま汁は万人受けする料理といえるかもしれません。
ちなみにかきたま汁は吸い物なので、あまり濃度を強くしませんが、中国料理の卵スープのようなとろみをつけたければ〈1%の片栗粉でとろみをつける〉→〈卵を投入する〉→〈再度片栗粉でとろみをつける〉という工程を踏みます。冬の寒い日などにはそういった汁物もいいでしょう。
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