見出し画像

唯一無二の鍛造フライパンの話と小さいフライパンを使うコツ

これまでフライパンを解説する記事や動画を色々、書いてきましたが、今回取り上げるのは鍛造フライパン。『たん造フライパン TANZO5』という高級フライパンをお借りできたので、ご紹介します。

公式サイトにさらっと書いてあるので読み流してしまいそうですが『鍛造エアースタンプハンマーでつくられ』とあります。

さて、そもそも鍛造とは? 鍛造とは金属を叩いて成形する加工方法です。鉄をハンマーやプレスで叩くと内部の空隙がつぶれ、金属組織が細かくなります。また、金属組織の方向が整い鍛流線(鍛造にともなってできる金属繊維の流れ、ファイバーフローともいう)が形成されることで強度が増すので、自動車や飛行機などの部品製造に使われています。

この記事はめずらしくPRを含んでいます

なかなか立派な箱に入っておりました。それもそのはず。このフライパンの価格は25,300円、フライパンとしてはなかなか高価です。

見た目、鍋の厚み、重たさは鋳物のフライパンに似ていますが、もっと滑らかな質感です。(詰まっている感じ)ここで鋳物という単語が出てきて、頭に『?』と浮かんだ方もいるとは思いますが、フライパンには他に鋳物という方法でつくられたものもあります。

スキレットについては以前に解説しましたが、僕の手元にある鋳物フライパンはロッジのスキレットと及源の製品。

左がロッジ、右が及源の製品です

鋳物は熱く溶かした鉄を砂型などに流し、冷やし固める加工方法です。鍛造と比べると叩くわけではないので、金属の粒子に隙間があり、組織が揃っていません。そのため、強度を獲得するには分厚くする必要がある、というわけです。一方、鋳造は大量生産でき、コスト的には有利。鍛造のほうがコストが高いので、フライパンの値段の違いはこんなところにも出てきます。また、鍛造はコストが高い技術なので、国内で引き受ける工場が減少しているという話も聞きます。

このフライパン、1946年より精密な自動車部品や鉄道部品などを製造してきた老舗メーカーが製造しているもので、培ってきたノウハウが詰め込まれているよう。鋳造のフライパンは他のメーカーも何社か製造していますが、鍛造エアースタンプハンマーという機械で2000トンの力で叩いて形をつくる、というフライパンは他に類を見ません。

取っ手にロゴが入っていました

さて、鍛造フライパンである『TANZO5』は取っ手が外れるのが特徴。引っ掛けて使うタイプです。今回のフライパンのサイズは20cm

重さは取ってを含めると約1.3kg

メーカーの販売ページ(楽天市場)には「厚みがあるほど熱をムラなく均等に伝えるという鉄の特性を活かしつつ、女性やシニア層にも使いやすい重さを追求し、フライパンは1.1kgに仕上げています」とあるので、使いやすさ、扱いやすさを考慮したサイズと思われます。

いずれにせよ、世の中に鉄のフライパンは多くあれども、ここまでがっちりしたフライパンは僕も見たことがありませんし、使ったこともありません。広報の方の話では材質から違うらしく、非常に純度が高い鉄(国産の最高品質の鉄100%)が使われているそう。届いたらすぐに使いはじめてもいい、とのことなので、早速、火にかけてみましょう。

これはTANZO5に限った話ではないのですが、小さいフライパンを使う場合は火加減に注意してください。鍋底に火の先端があたっている状態が目安です。

サーモグラフィーカメラで見てましょう。試しにフライパンを強火にかけると、このように熱がフライパンの外側に逃げていることがわかります。炎の温度は先端が一番高いので炎がはみ出す、ということは鍋ではなく空気を温めているようなもの。20cmのフライパンの場合は中火〜中弱火くらいで充分熱くなるので、中弱火でしばらく余熱を続けます。

通常は五徳部分の熱の伝わりが遅くなるものなのですが、驚くほど均一に温度が上がっていることがわかります。

IHで加熱した状態

試しにIHで加熱したサーモグラフィーカメラの写真がこちら。IHの場合、コイルがない中心部の温度がやや低めのドーナッツ状に温度が上がっていくのですが、このフライパンの場合、温度ムラが非常に少ない。温度分布が均一である、ということは均一に焼ける、そして食材も鍋にくっつきにくい、ということです。

中火で加熱して2分でこのくらいの温度。鉄のフライパンは事前にプレヒートして、表面の吸着水を飛ばし、油馴染みをよくしておく必要があるので、鉄のフライパンに慣れていない人はストップウォッチを使うといいでしょう。(また、家庭のガスコンロの場合Siセンサーがついているので、充分に予熱されればピピっと音がするのが目安にはなります)

フライパンの温度がしっかり上がってから油を馴染ませます。こうすればもうくっつきません。非常に蓄熱性が高いフライパンのため、予熱をしたら弱火に落としたほうが安全。

試しに卵を焼いてみました。じっくりと予熱したフライパンにサラダ油を多めに敷き、卵を割り入れます。

油で揚げるようにして、白身を焼いていきます。

白身が固まっていない部分は油をかけて加熱を続けます。蓄熱性が非常に高いので、火を止めた状態で余熱で調理したほうがいいかもしれません。

焼き上がりました。白身がカリカリで、香ばしさが際立っています。これが鉄のフライパンの良さ。メイラード反応はphや温度などの影響を受けますが、鉄イオンと銅イオンによって促進されます。そのため、鉄のフライパンは香ばしい焼き色がつきやすいのです。

写真からエッジのカリカリ感が伝わるか、と思います。究極の目玉焼きが焼けるサイズなのかもしれません。

【オプション】専用ガラスふた ¥2,200とのこと

また、このフライパン。専用のガラス蓋が存在します。鍛造や鋳物のフライパンにガラス蓋は非常にめずらしい。というのも蓋には精度が要求されるからですね。

広報の方に教えてもらったところ「ガラス蓋は真円の精度が求められるため、一般的に鉄フライパンでは使用されませんが、自社では0.3ミリ以下の公差という高精度の鍛造技術によってフライパンとしっかり密着するガラス蓋を実現しました」とのことでした。このあたり、精密部品を製造してきたメーカーの技術力が伺えます。

蓋があれば蒸し焼きができるので、料理の幅が広がります。予熱して油を馴染ませてから火加減を弱火に落としました。

塩を振った鮭を皮目を下にして、置きます。

蓋をして、2分蒸し焼きに。

裏返して、あとは余熱で2分火を通しましょう。

焼鮭です。一人暮らしのキッチンなどでは魚焼きグリルがない、あるいは魚焼きグリルは洗うのが面倒なので魚は食べないという人もいると思いますが、このフライパンを使うと魚がかなり上手に焼けます。皮はパリパリ、身はジューシー。

おいしい焼き魚は餃子方式という記事は酒を加える方法をご紹介していますが、このフライパン×蓋の組み合わせであれば密封度が高く、蓋の内側で熱が回るので水を入れる必要はなし。味が薄まらないので、これはかなりのメリットです。

次に鶏肉をソテーしてみました。充分に熱したフライパンに油を馴染ませてから、塩をした鶏もも肉約150g(鶏もも肉1枚を1/2にカットしたもの)を焼いていきます。

鶏肉を入れてもフライパンの表面温度がまったく落ちません。

皮目は高温で焼くべく、同じ火加減のまま焼いていきます。この蓄熱性が重たいフライパンの魅力ですね。

皮目に焼色がついたので、裏返しました。皮目に均一な焼色がついているのがわかります。さきほど写真で説明したように温度ムラがないことがこの均一さを生むわけです。ひっくり返してもフライパンの温度が下がらないため、ここからは二つの選択肢があります。一つはフライパンを火から外し温度を少し下げ、弱火で焼き続けること。

もう一つはオーブンでの加熱です。今回は170℃のトースターに3分入れました。

こうした使い方ができるのは取っ手が外れるフライパンのメリット。

焼き上がり。

皮はパリパリ、身はジューシーに焼けています。大きな肉を焼くにはサイズが足りませんが、一人前にはぴったり。肉に火が入りすぎるのを回避するために皿に移しましたが、取っ手がはずれるのでフライパンのまま食卓に出す手もあります。

ちなみに20cmサイズというのは食パン1/2枚がちょうど入る大きさ。朝食のパンも完璧に焼けました。取っ手が外れるのでフライパンで調理してからそのままオーブンで焼くジャガイモのガレットなどにも向いていると思います。

個人的な印象ですが、コツはとにかく中火以下の火力で調理すること。中火以下の火力であれば熱効率がいいので、無駄がありませんし、熱容量が大きいので火加減の調整もあまり必要ありません。価格に関しては肉や野菜、卵などをシンプルに焼くだけでおいしく仕上がる、という点をどこまで評価するか、と言ったところ。ホームページには「100年使える一生モノの調理器具」とありますが、価格に関しては長いスパンで考える必要もあるでしょう。

使い終わったら洗い、鍋を火にかけて水分を飛ばしておけばOK。いずれにせよ、厚手の鉄のフライパンは慣れるとすごくいい道具なので、小さいものから試してみるのもいいのでは。

いいなと思ったら応援しよう!

樋口直哉(TravelingFoodLab.)
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!