シンプル・アクアパッツァの作り方
イタリア生まれの魚料理、アクアパッツァ。 イタリア語で「狂った水」という意味のナポリ料理です。この料理、他のイタリア料理と同様に起源が不確かな料理です。漁師さんが海水を使って魚を煮込んだことに由来する、と説明されたり(塩水だと塩っぱすぎると思いますが)します。語源としてはもともと「狂った水」はトスカーナでワインを地主に納めてしまった後、残った茎や種、絞りかすを水で延ばして発酵させた粗悪なワインを指す言葉だったそう。
アクアパッツァを成立させるのに必要な要素は魚と水。上記の由来を考えればワインは入れたいところですが、酸っぱくなりすぎることがあるので、今回は水だけでさっぱりと仕上げます。魚だけなら水でも充分おいしくつくれます。
このアクアパッツァ。実は本国イタリアではほとんど知られていないマイナー料理。イタリア料理を定義したペッレグリーノ・アルトゥージの「イタリア料理大全」にも掲載されていない料理。1960年代にカプリ島で観光客相手に話題になり、ナポリで定着したようです。この料理を日本で有名にしたのは著名なイタリアンシェフ、日髙良実。店名にアクアパッツァとつけ、スペシャリテとして提供しています。
本国のアクアパッツァは魚のトマト水煮といった仕上がりですが、日髙シェフはそこにアレンジを加え、アサリを入れ、アンチョビを入れ、ケッパー入れ、オリーブを入れ、日本人好みでエレガントなリストランテの料理にグレードアップさせました。今回のレシピは日髙シェフのスタイルから「魚をしっかり焼く」ところを取り入れ、本国のスタイルであるトマト水煮に仕上げています。
アクアパッツァには通常、ワインやケッパー、アサリ、オリーブなどが入りますが、今回のアクアパッツァはシンプルな仕立て。好みで上記の材料やドライトマトを入れてもおいしくできます。
まずは魚の下処理。写真はニベというスズキ目の魚。スーパーで安かったので使いましたが、白身系であればなんでもOKです。
重量の1.5%の塩を両面に振って冷蔵庫に30分間以上入れておきます。
寝かせた状態がこちら。
表面に出てきた水分をペーパーで拭き取ります。こうした下処理はイタリア人はまずしません。しかし、魚の臭みはてきめんに抜け、塩気が浸透するのでやっておきたい仕事。1.5%の塩は多いような気もしますが、塩分が煮汁に溶けるのでちょうどいい塩梅になります。
他の材料はミニトマト。本来はドライトマトを使いますが、ミニトマトを使うとフレッシュ感が出ます。
へたをとってまな板に並べ、タッパーなどでおさえます。
包丁を横にスライドさせ、半分に切ります。
こうすると一気に切ることができて作業が早いです。トマトを使う場合は種をとりのぞくことが多いですが、今回はこのまま使います。トマトは種の周りの部分に最も多くのグルタミン酸ナトリウムが含まれているからです。魚のイノシン酸ナトリウムとトマトのグルタミン酸ナトリウムが味の決め手です。
オリーブオイルを敷いたフライパンで魚を焼いていきます。
両面香ばしく焼きますが、ここは火を通すことが目的ではないので手早く行います。フライパンはガス火の形状から外側ほど温度が高いので、魚は外側に置くようにすると効率的です。
これが最大のコツですが、両面に焦げ目がついたら火から外し、必ず焼き油を拭き取っておきます。この油が入ると汁が生臭くなったりします。
水150ccを投入。
トマトも加えて強火で煮ていきます。
沸騰したら仕上げのエキストラバージンオリーブオイル40ccを投入します。
強火でガンガンに沸かしながら、スプーンで汁を魚にかけながら火を通していきます。沸かすことで対流が起き、オリーブオイルと魚とトマトの煮汁が混ざり合って乳化し、ソースになります。
煮汁がソース状になれば完成。オイルが乳化するためには30%以上の水分が必要なので、煮詰めすぎると分離するので注意が必要です。
一応、魚の中心温度を計ってみました。中心温度は70℃から80℃のあいだくらいにしたいところ。はじめの焼き色をつけるのに手間取るともう少し温度が高くなってしまいますが、まあ特に気にしなくてもいいかもしれません。
イタリアンパセリを振りかければ出来上がり。イタリアンパセリではなく、バジルでもOK。
アサリを入れると豪華になりますが、なくてもミニトマトの量が多いので結構いい味になります。
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!