完璧な煮玉子の作り方を検討する
煮玉子は不動の人気を誇る卵料理。今日は「完璧な煮玉子」の作り方ではなく、完璧な「煮玉子の作り方」を探ります。
めんつゆの濃度の検討
ネットで煮玉子のレシピを検索すると『めんつゆ』を使ったものをよく見かけますが、ここでいきなりつまずきます。なぜなら、めんつゆにはストレートや2倍濃縮、三倍濃縮などの様々な製品があるからです。
そこで自家製の『そばだし』(ストレート)、ミツカンの追いがつおつゆ(2倍濃縮)ニンベンの『つゆの素』でそれぞれ煮玉子をつくり、結果を比較することにしました。ちなみに一般的なめんつゆの塩分濃度はストレートが3%程度、2倍は6.5%、3倍は10%程度です。さて、まずゆで卵づくりからはじめましょう。
茹で時間の算出
完璧なゆで卵の作り方についてはこちらですでに記事にしています。
ここは本題ではないので興味のない方は流し読みしてください。前回の検証で
このピーター・バーナムによる熱伝導の方程式は最適な茹で時間を導き出すために有用であることがわかったので、この式を使い茹で時間を算出しました。
個人的にはしっかりと火が通った煮玉子も好きなのですが、やはり人気なのは黄身が半熟のタイプ。しかし、黄身が半熟過ぎて流れるようでは困るので、黄身の表面温度(白身と接している部分)は75度としました。卵の初期温度は冷蔵庫から出したての10℃、湯の温度は通常1気圧における沸点である100℃とし、卵の直径は毎回計るのは現実的ではないので、一般的に市販されている卵の大きさのざっくりとした平均(約50mm)としました。計算結果はt=7.4分。つまり、沸騰した湯で卵を7分24秒茹で、氷水につければよい、ということです。
作り方は前回の記事を参照してください。まずは卵の底に小さな穴を開けておきます。
沸騰した湯を準備し、、、
卵を静かに投入します。鍋底に卵がぶつかり割れてしまうのが心配な方はザルなどを使って卵を投入する方法もあります。この時、沸点を維持するために火力を適宜調整してください。投入する卵の数が多いと、湯の温度が下がり、殻が剥きづらい、火が通っていないなどの問題が生じます。卵を入れたら強火にして、湯の温度を沸点まで戻し、中火くらいで茹でるのがいいでしょう。
氷水につけて直ちに冷まします。
ティースプーンの背で全体を叩き、殻にヒビを入れてから、流水を殻のあいだにいれるようにしながら剥くのが簡単です。
さて、それぞれのめんつゆに浸けていきます。卵を漬ける際は保存容器を使うこともありますが、ジッパー付きの袋が効率的です。ゆで卵を袋に入れて、めんつゆを適量注ぎます。
真空調理をする際に用いる『テーブルエッジ法』を用いて空気を抜きます。袋の頭の部分を持ち、液体の上部がテーブルの端にくるように調整します。袋をピンと張った状態でゆっくりと下に下ろしていき、テーブルの角で袋から空気を抜いていきます。最後にジッパー部分がテーブルの端にきたら、袋を閉じればOKです。
さて、あとは漬ければ完成……という具合なのですが、ここで一つ疑問が出てきます。よくレシピで「2〜3時間漬ける」「半日浸ける」「一晩漬ける」などの表記が出てきますが、一体、何時間漬け込めばいいのでしょうか? そこで1倍、2倍、3倍のめんつゆにつけた玉子を1時間ごとにとりだし、状態を確認することにしました。こうすれば適切な漬け込み時間も導き出せるはず。
まずは調理用語における「半日」とは一般的に6時間を指すので、6時間までの状態を調べました。
こちらは1倍、1時間浸けたもの。まったく味が入っていませんし、卵黄が流れ出るほどやわらかいのが特徴です。
同じ1倍でも6時間漬けると卵黄の外側がかすかに締まっているのがわかります。塩分のある液体に浸けたことで、卵黄の脱水が進むのです。どうやらこの「卵黄の脱水」に煮玉子のおいしさの秘密がありそうです。ただ、味はあいかわらずやや頼りなく、1倍のめんつゆは適切ではないことがわかります。
さて、3倍のめんつゆはどうでしょうか。3倍の場合は1時間ですでに白身が色づきはじめ、2時間ほどから白身に味が入りはじめます。写真は3時間経過したもので、すでに外側の塩味は充分。しかし、卵黄の脱水は思ったほど進んでいません。どうやら塩分濃度が高すぎると表面にすぐ味は染み込むものの、卵黄まで味が入らないようです。
3倍のめんつゆに6時間(半日)浸けたものは塩っぱくて、おいしいとは言えない出来でした。急いでいる場合には3倍濃縮タイプのめんつゆに卵を漬けるのも方法としてはアリかもしれませんが、外側だけが塩味が強く、煮卵としては成立していません。
最後に2倍のめんつゆはどうでしょうか? 3時間経過した段階ですでに卵黄の脱水がはじまっています。味はやや薄味ですが、かなりの出来です。
めんつゆ2倍の6時間経過。これまでで一番、おいしい煮玉子になりました。また、自作のそばつゆよりも市販のめんつゆを使ったほうが煮玉子としての完成度は高いようです。市販のめんつゆにはアミノ酸系の調味料が添加されているのですが、その甘みが卵と絶妙なマッチングを見せるようです。そもそも卵はコク味はあるものの、うま味の少ない食材。卵かけご飯に少量の味の素をふりかけると味に深みが出るのと同じ原理でしょう。
もちろん、自作のめんつゆにも肉類の旨味を足す(例えば煮豚の旨味など)ことでおいしくすることもできますが、塩分濃度を高くすることが意外と面倒。その点を考えると市販めんつゆの手軽さには勝てません。市販めんつゆの実力侮れず、という感じでしょうか。
2倍のめんつゆにつけ卵に可能性を感じたので、次に漬け込み時間を12時間に延長しました。3倍のように塩味は強くなっていませんが、さきほどよりも卵黄の脱水は進んでいます。6時間よりはあきらかにおいしくなっています。
こちらがさらに漬け込み時間を伸ばし、24時間経過した状態です。1倍は卵黄の脱水が進んでおらず、味はあいかわらずやや薄味。2倍は卵黄の脱水が進み飴色になっていることから、一目で美味しさがわかるというものです。外側と内側の塩分のバランスもこれまでで最高。ここでようやく結論です。
卵は冷蔵庫から出したてのものを約7分20秒茹で、氷水にとる。殻を剥いて2倍濃縮タイプの市販のめんつゆに漬ける。6時間以上漬ければ食べられるが、24時間漬けると最高の状態になる。
これが(いまのところ僕の考える)煮玉子の完璧な作り方です。もちろん、完璧さはそれを捉えた瞬間に逃げていきます。今回は2倍めんつゆの6.5%程度の塩分濃度にしましたが、さらに適切な塩分濃度があるかもしれません。今後とも検討の余地は充分にあるでしょう。
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!