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笑わない。

ピッフェは、小柄の少年。
同じ頃に生まれたみんなと比べると少しだけ小柄。

ピッフェは、いつも笑わない。
みんなの話が面白いとちっとも思えなかったから。

ピッフェは笑わないかわりに、
みんなと離れて、川のそばを注意深く観察して歩くのがだいすき。

笑わないことを気にしなくっていいし、
いつもたくさんの発見がある。
足のないぬるっとしたトモダチと目が合ったり。
家の窓と同じ形の石を見つけたり。
時々川の水に手を伸ばして気持ちいい音に揺られてみたり。

ある日、ピッフェが川のそばを歩いていたら、
対岸に同じような背格好の少年が立っていた。

初めて見るトモダチだ。

ピッフェは手を上にあげて、そのトモダチに「遊ぼっ」と合図した。
そのトモダチはピッフェと同じ動きをして「いいよ」と返事した。

ピッフェは足元にある石を一つ取って川に投げてみた。
そしたらトモダチも同じ動きをした。
今度は二つを一緒に投げてみた、またやっぱりおんなじ動き。

「真似ているのかな」
そう思ったピッフェは両手を空にできるだけ近づけて、
それぞれの手が別々の複雑な動きをするようにして楽しく踊った。
このダンスはピッフェの一番得意な風になる踊り。

するとトモダチもピッフェを観察しながら同じダンスをしてくれた。
それがとっても上手でピッフェは驚いた!

風になるダンスを誰かに見せるのは初めてだったし、
もちろん踊っている誰かを見るのも初めて。

とっても気持ちよさそうに踊るそのトモダチを見てピッフェは、
初めて笑った。

するとトモダチも同じように顔をクシャッと動かして笑った。

二人はあっという間にダンスパートナーになって、お互い大笑いした。
優しい風と水の音。木漏れ日の照明付きで二人は思いっきり楽しんだ。

ピッフェが別の動きをすると向こう側の少年も同じ動きを真似てみる。
そうしてオリジナルダンスがどんどん出来上がって、また大笑い。

ピッフェにとってこんなに楽しいトモダチとの時間は生まれて初めて。
笑い疲れて川に足を入れて一休み。
もちろんトモダチも同じ動き。一緒に一休み。

ピッフェは少し眠たくなってきて、少しの間目を瞑った。
それは今までで一番気持ちのいいお昼寝。
たくさん笑ってたくさん踊って、一緒に楽しんでくれたトモダチがいて。
ピッフェは微笑みながら眠ってしまった。

強い風がピューッと吹いて目が覚めたピッフェ。
そろそろ家に帰る時間。

ふと対岸を見ると、トモダチの姿はもうどこにもなかった。
少し寂しくなったけれど、ピッフェの心にははっきりとさっきの思い出が描かれてた。

また「ふふっ」と笑顔になったピッフェ。
ひとりでいつもの帰り道に進むと、なんだか笑い声が聞こえてきた。

「どっちが早いか勝負だったのに、お前が転んで面白かったぜ!」

いつものみんなが大勢で笑う声で、ピッフェの笑顔が止んだ。
また誰かの失敗や恥ずかしい出来事で優劣をつけて笑っている。
そんなことでは、どうしてもピッフェは笑えなかった。

みんなの横を通り過ぎようとしたら話しかけてきたのは、
会話の中心にいたゼスキロ。

「聞いてくれよ、この話ならきっとピッフェも笑うだろうよ」

ピッフェはさっき聞こえてきた話をもう一度聞くのが辛くて先に話した。
「今日はぼくもたくさん笑ったよ」
「新しいトモダチと一緒に楽しい踊りを踊ったのさ」

なんのことだかさっぱりわかわないゼスキロは、口を開けたまま。
ピッフェも笑うことがあるのか?と驚いていた。

ゼスキロの返事を待たずにピッフェは続けてみんなに話した。

「ぼくは誰かの失敗やアクシデントでは笑えないよ」
「ぼくを笑顔にしてみたいならみんなで辛いことに打ち勝つとか、
 小さなかよわい動物をみんなで助けるとか、そういうことをしようよ。」

その時だった。

沈黙を破ったのは、さっきピッフェを昼寝から起こした強い風。
みんなを倒れさせるほどの勢いで
ピューーーっと大きな音を出して吹いた。

それぞれみんな、
しゃがみ込んだり目を覆ったり叫んだりした。
「うわー!なんだこの風!」
「危ない危ない、なにしてくれんだ!」

ゼスキロはひとり、
強風に耐え凌ぎながら何かを考えているようだった。

ピッフェもまた違うことを考えていた。

「君は風だったんだね」
「僕を笑顔にして、勇気を思い出させてくれたんだね…」

そう小さく呟いたピッフェの目には、うっすら涙が浮かんでいた。
ピッフェを助けた“踊る風“は、そのままどこかへ消えていった。


その後ゼスキロは少し恥ずかしそうにこう言った。

「明日はピッフェの言う通り競わずみんなで何かを作ろう」


周りのみんなも立ちがりながら、いいね!と合図した。

そして、ピッフェはゼスキロに初めて笑顔を見せて「うん」と頷いた。

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