【ドイツあれこれ】美しいだけに終わらない踊り
[初出:2009年7月]
先日の飲み会の話題はダンスだった。ピナ・バウシュの最新作を観たという友人が得意気に語る。友人が興奮するのも無理はない。ドイツを代表するダンス振付家ピナ・バウシュの公演チケットは入手困難を極める。プログラムの発表から数分後には売り切れてしまう。
昔はその方面にコネがあって、ピナの舞台をよく観た。しかし、近年の作品には若い頃のような新鮮さがないように感じ、足が遠のいていた。また、彼女が舞台に出ると同時に、観客は総立ちで拍手喝采する。そんな神様扱いも嫌だった。
友人の自慢話を聞きながら、近くに住んでいるのだから、観たかったらいつでも観れると、妬み半分に思った。しかし、それは間違いだった。その二日後に、ピナは亡き人となった。訃報を聞いて、ピナ自身が踊る「カフェ・ミュラー」の寂寥感がなぜか蘇ってきた。