小説『対抗運動』 第1章2 2002年冬休み 舞ちゃん上京
舞ちゃん「おいさん、いっつもここで仕事しよるん?広いね。」
おいさん「うん。ここはボーリング場だったらしいよ。この前、舞ちゃんと逢うたんは中学生の時やったね。もう、四年前やね。あの時はびっくりしたよ。羽田で、ちっちゃい女の子ばっかりさがしとったら、背の高い娘さんが後ろから肩つっつくから腰ぬかしそうになった。二日連続でディズニーランドへ行ったね。おいさんとこは三人とも男の子ばっかりじゃけん、なんかドキドキしたよ。」
舞ちゃん「おいさんはネクタイして高層ビルでバリバリ仕事しとるんじゃと思とった。」
おいさん「ふーん。舞ちゃん、ここでね、音楽かけてね、いっぱい梱包して。宅配便屋さんがくるのに間にあわさんといかんけんね。おいさんはね、背広着とると肩こるけんね。手が空いたときはこのでっかい作業台で、皆に手紙書いたり作文したりじゃよ。本、読んどったらいかんけどね。書くのはOK。おいさんの作文、面白かろ?」
舞ちゃん「時々は面白いけど、なんかむつかしい。おいさん、思想てなんよ。」
おいさん「舞ちゃん、今だけよかったらええ、というんはアカンのや。自分らだけええというのも。腹の底からええ、というんやないと。」
舞ちゃん「おいさん、うちマルクスって知っとるよ。プルードンも。読んどらせんけど。」
おいさん「舞ちゃん、いつか読むよ。仕事しだすとね、変なことばっかりやから。いろいろ人に聞いても、皆困った顔するけんね。自分で勉強せなどうもならん。」
舞ちゃん「おいさんはいつからやったん?」
おいさん「自分でやらんといかん、と思たんは四十歳くらい。」
舞ちゃん「ほんと?」
おいさん「うん。それまでは、他の人がやるじゃろ思とったけんね。」
舞ちゃん「面白い?」
おいさん「うん、面白い。ちょっとづつやけどね。」
続く
(執筆:飛彈ゴロウ、2003年1月29日)