奈落⑭
いよいよ秋も本格的になってきたころ、わたしたちの同居生活を根本から動揺をきたすことが起こった。それはいままでの暮らし、さらに私たちの関係まで永遠に変えてしまい、わたし自身の人生にも今日に至るまで深い影を落とすまでの出来事であった。実際、わたしは今においてもこの出来事から始まった一連の振動から立ち上がれることなく、今においてもそれは長い影を落としているのである。
ある朝アマンダが、車の中でわたしに話があるから一緒にお昼にいこうと誘った。わたしは一瞬何事かと思ったが承知し、いつも通り街の図書館の前でおろしてもらった。車を先月の事故で失ったわたしはもはやペンシルヴァニアの囚人であった。歩くにしても街にでるだけで数キロ歩かなければならず、どこにも行くことができない。もはやアマンダなしにはどこもいけない身になっていた。
その朝は図書館の、自分の好みであったソファーに腰掛け、本を読みながら過ごした。何冊か選らんでもってきたが、何を読んだのかは覚えていない。とにかく11時半までには授業が終わってこちらへくるだろう。それが終わったら大統領のところで一応形だけの面接を受けてこなければ。実は先週大統領の店に行ったときにオヤジ自らから働いてみないかという打診があり、それを受けるつもりであった。大統領はわたしが頻繁に来るのに気づき、どうやら好印象を残したみあいであった。わたしは、そこで働くことに前向きな気持ちでいた。貯金や事故の保険金が下りたにせよ永遠に続くものではないし、同居生活の支出を負担し続けたかったからだ。
やがてアマンダが来そうな時間帯になり、わたしは図書館をでた。外ではさわやかな風が赤く染まった広葉樹の葉を散らしていた。ペンシルヴァニアの唯一いいところを上げるとしたなら、そのはっきりとした四季の美しさであった。夏はとても暑く蒸していたが、それでも緑一面の丘陵や絵にかいたような田園風景は美しく感じられた。そして話によると霜月のころには雪も降りだすという。ペンシルヴァニアには、前来た時の体験からいい印象がなかったが、こう実際長い間滞在して季節が変わるのを体験していると、そう悪くもなかった。住めば都、とはこのことを指すのであろう。
やがてアマンダの緑のセダンが見えてきたので、わたしは手を振ってから乗り込んだ。アマンダは
「今日はわたしのおごりだよ」
といいながら、わたしを街はずれの中華料理屋に連れて行った。注文して料理を待っている間わたしは
「ところで話ってなに」
と尋ねた。
「んーっとね」
と彼女は口を濁した。
「あの子たちがあなたに出て行ってほしいのよ」
ああそうですか。正直それはそのうち言われるだろうとは薄々感じていた。
「でも、今のわたしたちの状態が状態だし・・なので・・」
「わたしの車で寝てくれてもいいかな?わたしがなんとかするから」
はあ、まあしょうがないけどそれってどうなんだ、というか二人で家賃だせば自分たちの場所が借りられるんじゃないか?でもあれか、両親にばれたくないのか。
しかたなく私はこの提案に賛成した。
つづく