奈落⑮
こうしてわたしの意図しない車上生活がはじまったのである。大体ウォルマートとブラジルの要求は理不尽であった。わたしはアマンダを通じて家賃の一部を渡していたし、てめぇらのあとかたずけをするための下男としてそこに住んでいたわけではなかったのである。ただし、わたしはアマンダの顔を立ててやる必要性を感じたし、ちょっとだけ辛抱してくれ、という彼女の言葉に折れたのであった。
アマンダはそのために寝袋を買ってきた。まあそれはよいにしろよく箱を読んでみると春夏用との記載があった。これからどんどん寒くなるのにどうするんだ?そしてこれからの日課をどうするか、というのも二人で話し合ったうえで決めた。それはこういった内容だった。朝、わたしはやつらが起きてくる前に車を出て、大学のキャンパスに向かう。そして夜は家が寝静まってから車に戻ってきて床に就く。そのためにはアマンダ自身がわたしにGOサインの合図を送ってわたしが大学の図書館からでる、という手順をとることになった。それにしてもアマンダがやつらの言いなりにしているのがとても癪にさわった。どうせ親にちくるとかしょうもない脅しをかけられていたのであろう。やってることが幼稚すぎて話にならなかったし、それに言いなりになっているアマンダにもいらつきを覚えた。それにしてもまったくこいつらに対するわたしの悪い予感は的中してしまった。自分じゃなにもできねえくせに声だけはでかい。まったく腹立たしい連中であった。
そんなめちゃくちゃな生活がその晩から始まった。わたしは、その日から大統領の店で働いていたから、仕事が上がってから大学図書館まで歩いていき、アマンダからの連絡を待った。店と大学図書館が徒歩5分くらいだったのは助かった。これからの季節、寒さがより厳しくなってきたらそれ以上の距離の歩行は到底無理になるだろう。わたしは思い切って今の状態を母に打ち明けようとも思ったがどうせ役に立ちはしないだろう。大体思い返してみればわたしの人生にかかわってきたやつらはどいつもこいつもわたしの世話を焼かせて、わたしの邪魔をし、すべてを台無しにするような連中ばかりであった。アマンダだって結果としてわたしに甘えているから自分の無茶を押し切りとおそうとするのではないのか。わたしはいつも彼女のわがままを我慢してきたのではないのか。その結果がこの体たらくである。わたしは全くみじめであった。いっそのことこのままペンシルヴァニアの山かどっかに疾走して、二度と出てきたくない気持ちでいっぱいであった。そんな気持ちを肯定するかのように背中にしみるような痛さを覚えさせた。
つづく