見出し画像

新生⑧

アマンダがフィラデルフィアに帰る朝、早めに二人でホテルのチェックアウトを済ませ、空港までのシャトルに乗り込んだ。前の日は結局食事に出た以外はどこにもいかず、終始二人きりで過ごしただけであった。自分自身、ここまで深い関係に、この三日という短い間でなっているとは思ってはいなかったので、驚きと戸惑いが、幸福感の奥にうっすらと漂っていた。

「じゃあ、またくるね」

セキュリティチェックの入り口で、名残惜しそうにアマンダは別れを告げ、わたしは、彼女の姿が見えなくなるまで見送ってから、家路についた。アマンダは、愛のすべてを教えてくれる、初めての相手のように感じた。彼女はすべてを、惜しみなくわたしに与えてくれる、まったく特別な存在となりつつあった。では、なぜ自分はそれに対して、いささか困惑しているのかが利器できなかったし、彼女の背後には常にEの姿を感じていた。結局どうしようとEからの支配から解放されないのか。そう思うと気が重くなり、アマンダにも申し訳なく感じた。

わたしは、空港から遠回りをして、二日前に、二人がつかった海辺を通る路線バスに乗り込んだ。一人、車窓に広がる海を見つめていると、アマンダとEの顔が交互に浮かんでは消えた。二人ともかわいそうな存在だ。それなのにそれに対して自分ができることなんて微々たるものだ。それに、自分も流されるように新しい関係に入ってしまって、二人にもうしわけない。わたしは、自分がなさけなくなった。

海からの風がヤシの木を激しく揺らした。雲一つないカリフォルニアの空を眺め続けながら、終点の、たった二日前に二人で手をつないで歩いて行った桟橋の前でバスを降り、家路までのバスに乗り換えた。海から遠ざかるにつれて、わたしが短い間に感じていた波のように押し寄せていた幸福感も同時に離れていくように感じられた。

わたしは、家に帰り、ソファーに力なく座り込んだ。疲労のせいもあったのだろう、わたしはいつの間にか眠りについていた。

夢の中でEに出会った。彼女は、地下室のような、暗闇の中を、一人で座り、涙で顔を濡らしていた。彼女はわたしに、いままで起こった出来事について心から謝り、許しを乞うた。それを聞いたわたしは、変な気分になった。こうなってしまって、そのあとの出来事をかんがえたときに、正直それはおあいこなのではないのか。結局彼女がああいう行動をとったのもすべて彼女が悪いわけじゃないしわたしにも非があったのではないか。

やがて眼を覚ました時には、日が落ちようとしている時刻だった。わたしは、Eを許し、アマンダとの新生を一生懸命に生きよう、そう決心した。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?