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Homecoming⑩

ギャラップを出るころには日は沈んで、空には月が浮かんでいた。その月が、地平線を照らす車窓をぼんやりと眺めていた。アリゾナの砂漠は、他と違ってサボテンが多いと聞いていたが、それも目にすることはなかった。こんなところに住める生き物はいるのだろうか。もっとも、独特の生態系があるということを習ってきたが。

そんな砂漠の中をバスは夜通し走り続けた。普段と違って途中停車したのかも覚えていない。乗客の多くも、読書灯を消して寝静まっているようであった。やがてうっすらと空が明るくなり、薄い菫色へと変わっていった。次にバスが停車したのはカリフォルニアのバーストーであった。バーストーはロサンゼルスの玄関口である。ここには鉄道の大きなターミナルもあり、ロサンゼルスの港から内陸へ運ばれる物資が個々の目的地へ散っていく、そんな場所でもあった。

ここで朝食の休憩だという。私は早朝の靄の中、バスを下車した。ここのバスターミナルは今までと違っていろいろなファーストフードのチェーンが出店していた。中華にメキシコ料理にマクドナルドと、今まで考えられなかった数々のバラエティを案内する看板が乗客を向かい入れていた。ただし、この朝の時間に営業しているのはマクドナルドだけだ。わたしはここまで来てマクドナルドにはいるのもなんだか嫌だったので、近くのコンビニで簡単に頬張れるものとコーヒーを買い、ターミナルにもどった。朝だったのであの二人に連絡するのも何か悪い気がした。わたしはただ暇つぶしのためにパソコンを起動すると、私がオンラインになったのを気付いてアマンダが通話をしてきた。

「おはよ、いまどこなの?」

「今ロサンゼルスの近くまで来たよ。朝早いんだね」

「ううん、心配で起きてたの」

「えー。駄目だよ、寝なきゃ。大丈夫?」

「うん、これからちょっと休むから。それより無事でよかった」

そんな他愛のない話をしながら、わたしは彼女に感謝した。わたしなんかをちゃんと心配してくれる人間がいるということは心強く感じられたし、彼女という見えない存在がいなければ、この往路の旅、わたしは精神的に負けてしまっていただろう。

通話を終えてバスの発車時刻までそのままベンチに座っていた。今朝はすがすがしい。それに、ロサンゼルスの都市圏を抜ければもう終点である。わたしは、10日間バスの中で過ごして心身ともに限界に達していた。その苦難ももうすぐで終わると思うと身が軽くなったように思えた。そして、またバスはわたしをのせて出発し、執着地へ向けて走り出した。今日は12月24日だった。

つづく


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