冬
車上生活にようやく慣れた頃には暦はもう師走で、木々の葉っぱが完全に散った頃であった。その頃にはある程度生活のルーチンが決まってきていた。まだ暗いうちに目を覚ませてから車から降り、大学の図書館で朝の時間を過ごす。昼頃になったら大統領の店に出勤してその日の仕込みをこなす。昼頃になったら大統領夫婦と昼食をたべる。そのあと夜10時まで働いて、まかないをもらって車に戻る。こういった具合だ。
アマンダとの関係も言うなれば「可もなく不可もない」といった調子であった。わたしたちは一緒にいられる時間は映画を見たりして過ごしたし、彼女はわたしのことを愛しているとよく言った。そして恋人同士の営みは車の中で済ませる事が多かった。邪魔が入らないような人気がないところに移動してお互いの愛を確かめあったのだ。
さて、12月はわたしの誕生月である。アマンダはわたしに誕生日のサプライズがあるから期待しててねと1週間前から告知していた。一体何の話だ。大体あんたのサプライズはオレを三日二夜フィラデルフィアに放置して路上生活させるとか車で寝させるとかそういう類のもんだろう。少し嫌な予感が頭の中で湧き上がった。その不安要素を抱えながら果たしてその日がやってきた。人生で禄に誕生日を祝ってもらった事がなかったわたしにとってはもはや嫌な予感さえ新鮮に感じられたが・・。一体こいつは何をするつもりなんだろう。
いつもより早い時間に暇乞いをして仕事を上がってからアマンダにあうと、彼女はニコニコしながら「わたしが作ったの」と言いながら皿をわたしにわたしてきた。受け取ってみるとちょっと不格好な餃子が20個ほど載せられ、上からラップされていた。
「びっくりした?わたしが一人で作ったのお」と何やら得意げにわたしをみてきた。ほほお、これがサプライズか。料理をしたことがない人にとっちゃまあまあよくはできているようだ。
つづく