アメリカの風景:ロサンゼルスからフィラデルフィアまでグレイハウンドバスで旅をしたときの思い出①
あれからあまりにも長い時間が過ぎてしまったので、自分の記憶を辿るためにも、この出来事について書こうと決めた。
あれはブッシュが戦争をしていた頃だったか。アメリカの高校を中退したわたしは、家庭の事情で遠距離恋愛状態にあった相手に会いに行くために、その年のクリスマスにグレイハウンドバス、つまりアメリカの高速バス、を使って大陸を横断をするという無謀な計画を立てた。
グレイハウンドを使おうと考えついたのは、それが一番安い大陸横断の手段であり、当時の友人であったRもそれを勧めたからである。
「君がどこにいるかはこっちで話を作っておくよ。」
そういった彼は、積極的に旅の準備を側面から支えてくれた。
そして旅の初日、ロサンゼルスのバスターミナルまで友人と別れをつげ、無事に5日間の旅が始まったのである。
ロサンゼルス近郊の車窓はつまらない。延々と住宅街とショッピングモールが押し寿司のように段々と繋がっている。この風景を2時間ほど眺めていると、バスはサンバナディノという、ロサンゼルス都市圏の端にある街についた。ここで20分の休憩だと運転手は大きな声で乗客に伝えるので、降りることにした。
今は知らないが、当時のグレイハウンドのターミナルはどこも同じような作りで、ファーストフード、コンビニのような店舗、トイレ、良くて有料のシャワー施設があるような簡素な場所であった。それが待合室の両端にあり、バスのプラットフォームから降りてきた乗客はそれぞれの用事を済ましたり、休憩したりする。勿論、ターミナルの外に色々お店がある場合もあるが、バスターミナルは大体街の中心街に位置する。いわゆるダウンタウンである。アメリカの都市を訪れたことがあるならわかると思うが、治安が悪い。シャッター街の場合も多い。結局ターミナルにいるしかないのである。
そんなターミナルで軽い休憩を取って、ふたたび同じバスに再乗車する。乗車するときはチケットを提示しなければ乗ることができない。そして乗り遅れるとそのまま置いていかれることもあるそうだ。
だが無事にバスは発車し、そのまま高速道路に戻る。サンバナディノを過ぎるとカリフォルニアとアリゾナの州境まで延々と砂漠の風景が続く。もう夕方だ。バスの後ろに大きな太陽が沈んでいく。旅はまだ始まったばかりだ。まだカリフォルニアもでていない。だがわたしの心は軽かった。あと4日乗っていればフィラデルフィアにつく。
つづく