奈落㉒
終点の駅まで快速電車でそのまま移動したがずっと地下区間だったのでどこまでいどうしたのか、どういう風景なのかわからなかった。一時間も過ぎないうちに電車はやがて北フィラデルフィアのターミナルに到着し、残った乗客と共に電車通りて改札をでた。駅前は、南ロサンゼルスを彷彿させるような、商店とグラフィティがならんだ光景が広がっていた。ここの何が治安が危んだ?と思った。こんなん通学途中で見飽きていたし、ここの地下鉄よりひどい公共交通機関はロサンゼルスでさんざん乗っていたからである。
それは懐かしい光景ではあったが、たしかにそこには同時に何もなかった。仕方がない。十分ほどあたりをほっつき歩いてからそのまま駅に戻ってきた。こう眠くなかったらもう少しこの面白そうな街を隅々まで探索するのだが。実のところわたしはアメリカ人の言う治安がいい場所がちっとも好きになれなかった。奴らは白人同士で固まって済むことを治安がいいといいはり、特にゲーテッドコミュニティという、そこへアクセスが制限されているようなところに「治安上良いから」と理由で住むことをステータスとしていた。要は周りを柵で囲まれたコミュニティを好き好むやつらなのである。手っ取り早食いうとそれは刑務所だって動物園だってそれとそう大差ないわけだ。まったく、どっちが柵の中なのか分かっていないような連中なので救いようがなかった。
さっきのボロい駅に結局戻ってきたわたしは、今度は逆の方面の電車へ、フィラデルフィアの中心街へ戻るために乗り込んだ。さっきは急ぎ足の快速電車でここまできたが、帰りはそう急ぐ事もなかったので、あえてまっていた快速電車を見送ってから、反対側に来た鈍行に乗り込んだ。鈍行と言っても格段に遅いわけではない。さっき快速に乗った時の主要時間を5分ほど伸ばした所要時間でフィラデルフィアまで戻ることができた。そのまま街の南部まで行ってもよかったのかと今になってはそう思う事が出来るが、何しろ疲れていたので、電車を降りてから駅の近くの公園のベンチに腰を下ろして目を閉じていた。それのおかげかわたしのたまっていた疲れが一気に疲れ吹き出してきた。そして数時間そこで休めることで、心身の疲れを取ろうとした。
つづく