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新生⑫

カリンに8年前と同じ質問を投げかけられてわたしは一瞬狼狽えた。わたしはまるで昔にタイムスリップしたように錯覚した。そして、カリンの不安そうな表情とカホの面影が重なった。気付くまもなくわたしは、8年前の冬にそうしたように顔をうつむいてしまっていた。答えなければならないのはわかっていたが言葉がでない。思い浮かぶのはアマンダの顔ばかりだった。

しばらく黙っていると、カリンはこう言って謝った。
「急に変なこと聞いちゃってごめんなさい、困っちゃいますよね」

わたしはいや、といい

「僕も色々考える所があって」

と答えるのが精一杯であった。

帰りのバスの中でわたしたちは無言のままであった。今までは意識していなかった透明な壁が一層鮮明に二人の間を隔てているように思えた。別れ際に

「じゃあ、また来週の授業で」

と挨拶すると

「はい、今日はありがとうございました」

と、どこかよそよそしい返事が返ってきた。それもじぶんのせいだし無理もなかったが、わたしは心の奥底の孤独感が強まるのを感じ、早く家に帰ってアマンダと話がしたいという気持ちだけ強く感じていた。どうすればいいのか、わたしのなかの答えは鮮明だった。

帰ってきて早速アマンダに電話をした。

「実はつたえたいことがあって」

「うん‥わたしも実はいいたいことがあるの」

「え、じゃあお先にどうぞ」

「えっ、わかった‥」

アマンダはためらいながら、深く深呼吸をしてから、ゆっくり話しだした。

実はね、最近男友達の〇〇と仲良くしてたんだけどさ」

「はい?」

私の頭は瞬間湯沸かし器になったかのごとく、いっきに頭に熱い血が上るのを感じた。なんだ、こいつオレとおんなじことやってんじゃねぇか。ってやんでぇ。さっきまで感じていた罪悪感があっという間に蒸発していった。

「でも、やっぱりあなたといっしょにいたいっておもって‥」

「‥そうなんだ」

「それでもいい?」

「わかった‥実は僕もそう思って連絡したんだ」

「あの子と何かあったの?」

「いや、あと来週で二学期終わるし、それでただの友だちだということをはっきりさせてきた」

これは真っ赤な嘘であった。カリンの「わたしのことをどう思ってるの」かという質問を、わたしは8年前にカホに対してそうしたようにはぐらかしたし、はっきり自分には恋人がいるとも彼女に伝えてもいなかったからだ。

だがわたしのそういった不誠実さにアマンダは納得し、冬にこっちに来れるかもしれないということを話した。わたしは彼女の明るくなった声を聞きながら、ますます疑心暗鬼の道へと転がり落ちていった。

つづく



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