新生⑪
その秋の間、わたしの心は少しずつカリンに奪われていった。わたしたちは常に、人類の進化について図書館で勉強しあい、その合間にわたしは日系のスーパーやコンビニの場所を、まだ渡米して間もない彼女に教えた。
何処からが浮気か、というくだらない質問が度々聞かれるが、それが、他の相手に心が移ってしまった時点と定義されるならばわたしは完全に有罪で、銃殺刑に処されていたであろう。事実、カリンはアメリカという座敷牢に、無期懲役で入れられてたようなわたしにとって願っても無い存在だということを痛感し始めていた。カリンは、わたしが日本語で会話できる惟一の相手だったし、彼女はアメリカでの生活について、先輩であるわたしに頼った。
カリンはわたしの初恋の相手、カホをわたしに思い出させた。カホとは小学校時代にずっと同じクラスで、六年生になった頃には、度々お互いの家で遊ぶような仲だった。ある日の放課後わたしの家に遊びに来たカホは
「あたしのこと、どう思ってるの?」
とわたしに聞いた。わたしは、彼女の事が大好きで、いつも彼女のことを考えていると切実に伝えたかったが、赤面してそのまま俯いてしまった。そしてそのままカホは地元の中学に上がり、わたしはアメリカに送られてしまった。それと同時に、わたしは初恋を逃し、それからアメリカで孤独な、勉強だけがある厳格な生活を送ってきていた。そんな中で現れたカホはまるでわたしの小学校時代の過ちを改めるチャンスをもたらしてくれる存在のように感じられた。
だがそんな中でも、常にアマンダの影があった。Eが常にアマンダの影でわたしを見つめていたように、アマンダは常にわたしとカホの関係を見つめているように感じた。その目線は常にわたしを非難し、わたしの心に鋭いナイフを突き刺した。アマンダとの関係はまだ続いていたが、わたしは同時にこの関係がそのうち到来する冬が公園の木の葉っぱを全て枯らすように、いずれ終わるのだろうということを感じていた。
ある日、課題を終えたわたしとカリンは海辺に来ていた。夕陽に照らされる彼女の横顔は、まるでカホの横顔をみてるように思えた。今日、色々はっきりさせなければいけないだろう。カホとのことも、アマンダのことも。そのような予感をわたしは薄々感じ取っていた。
波の音を聞きながら桟橋のベンチにしばらくふたりで座っていると、カリンはわたしの方に顔を向けて、出会った最初の日に見せた不安の色を顔に見せて、ためらいながらこうわたしに聞いた。
「‥わたしのこと、どう思っていますか?」
つづく
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