高卒就職問題 「先生、就職したいんだけど、何やったらいいスか?」
高卒就職問題研究のtransactorlabです。問題解消のための研究調査と提言を続けております。今日は、やりたいことが全く見えていない生徒に就職試験の応募先をどうやってみつけさせるか、という話です。
「先生、就職したいんだけど、何やったらいいスか?」
うちの学校では2年生の冬休み前後になると、こんな感じの相談を持ちかけてくる生徒が出てきます。それまで進路研究だキャリア教育だのと様々なことは行っているのですが、進路多様校の生徒というのはだいたい尻に火が付くまで我が事として捉えない子が多い。部活を一生懸命やっている生徒はなおさらで、3年の6月、最後の大会が終わってからやっと、もう7月が目の前、なんてなことはザラです。
で、そういう生徒と先生の間ではこんな会話がよくなされます。
「どんなことがしたいん?」
「わかんないっす」
「製造業とか建設業とか小売系とか、そういう業種的な希望ってある?」
「ギョウシュテキって、何スか?」
「 (絶句 もしくは ) ん~、業種ってのはな・・・・」
「ギョウシュテキ」という音声が脳内で「業種的」と漢字変換できていない生徒も本当にいます。まあ、最初は誰でもそうです。しかし、高3の暑くなる時期でもそういう状態だと指導する方は苦労します。最終的には8月末までに応募するところまでいかないといけないのでカウンセリング的なやり方ではとても間に合わない。
「じゃ、まあ、この中からいくつか選んでみい。(求人票を束ねたファイルの背表紙を指して)製造業、食品系製造業、建設業、卸売小売系、医療介護福祉、で、その他サービス業」
「何すかコレ?」
「昨年度の県内求人」
「どんだけあるんスか?」
「全部で2000件ぐらいあるな」
「ムリっす」
そもそも彼らは書類というものが苦手。しかも求人票というやつは相当の経験がないと良い/良くないの見分けがつかない難解なもの。それが束になったファイルの山です。高校生がメンドクサと感じ、選び方がテキトーになってしまうのは無理もないこと。これがミスマッチと早期離職の遠因になっていると私は思います。求人が非常に少なかった時代とは違い、多すぎることが選びにくさ・見つけにくさを生んでいるのです。
そこで、私の学校ではこういうシステムを就職支援に活用しています。独自のプログラムを使用しています。
・公開求人票をエクセルの一覧表にする
・求人票PDFをダウンロードする
・一覧表と求人票PDFはハイパーリンクでつながっており、一覧表をクリックするだけで求人票を閲覧できる
・この一覧表とPDFのセットを生徒が使えるPCに置く
・就業場所・業種・給与・休日数など様々な条件で自由に並べ替えや絞り込み検索ができる
・ホームページURL記載のある事業所には一覧表や求人票からジャンプできる
・令和3年度からGIGAスクールの絡みで配布された一人一台の端末でも使えるようにした
このシステムの導入後、求人票の探させ方は、以下のようなエクセルのフィルター機能の使い方を教えるだけに変わりました。
「じゃあ、就業場所から行くか。家から通える範囲だろ。キミの家は○○町だから、△・◇・○ぐらいでいいんじゃないか。そこをチェックしてエンター。何件残った?」
「600もあるっス」
「業種はどうする?」
「わかんないっス」
「そっか。じゃ、まあいいか。じゃ、給料はどんぐらいがいい?」
「高い方がいいっス」
「だよな。じゃあ、その月給ってところの▽をクリックして、『降順』」
「あ、高い順になったっス。スゲー。こんなにもらえる会社もあるんスね」
・・・その中から選べてしまうこともしばしば・・・
「じゃあ、次に休みの数だ」
「これも並べかえればいいんスね。うわ、なんスか、年間170日休みの会社って?」
「ああ、そういうのは夜勤1回休み2日の形の求人だな。夜勤ばっかりだけど、そういうのでもいいか?」
「それ、ちょっと嫌っス」
・・・ビミョーと言わないということは本当に嫌だということ
「じゃあ、下にスクロールして、給料と休みの数がだいたいこれぐらいならいいやって感じのを見つけて印刷すればいい。」
「何個でもいいんスか?」
「なんぼでもいいけど、まあ10とか20ぐらいにしといたら。その中からまた絞っていけばいい。絞れたら教えてくれ。その会社が今年も求人出すかどうか問い合わせてやるよ。去年出してるところはたいがい今年も出すよ。」
「了解っス!」
このあとは放置して大丈夫。30分もすれば候補の求人票を持ってきます。求人票を見ながら、いろんな会社のホームページをバンバン閲覧できますので、さっきまで「ギョウシュテキって何スか」状態だった生徒が「この会社に見学にいかせてもらえないですか」と言えるようになります。
紙だけのころは、ここまでなるのに一週間や10日はかかっていたものです。
このシステムは私が独自に開発し、現在のところ本校だけで運用しているものです。今どき何で?どこでも紙ベースなの?と驚かれる方も多いでしょう。そうなんです。
なぜかというと、高卒就職の求人情報の源は厚生労働省労働局が所管する「高卒就職情報WEBサービス」なのですが、ここへのアクセスは教職員限定で、生徒が自分でアクセスして閲覧・検索することがルール上許されていなません。
また、そのWEBサービスの情報提供のあり方が「先生がアクセス、プリントアウト、一覧表を作り、それを生徒が見る」という紙ベース思考の設計になっています。当然、先生の負担もかなりのものになります。
就職したいのだけど、どんな仕事をしたいのか分からない
じっくり時間をかけて相談しながら・・・という方法は、私はあまりいいやり方だと思いません。何事も選ぶには選択肢が必要ですが、「分からない」という場合、その人の中に選べるほど、または考えることができるほどの量の情報がないことが多いからです。情報が乏しい状態で考えたところでいい答えはなかなか見つからないものです。時間も足りません。
就職志望先選びについては、求人票の束か一覧表を片っ端から眺めさせるのが一番いい方法だと思います。眺めているうちに情報が貯まり、考え、評価し、選べるようになるからです。世の中を知る勉強にもなります。
ただ、今の子どもたちに何千枚もの紙の束をドンと預けての「この中から探せ」方式ではダメです。
高卒就職情報提供WEBサービスの今のあり方は、だからダメなんです。
上記のシステムに興味を持たれ、導入をお考えの高校の先生はご一報下さい。
transactorlab@gmail.com