高卒就職市場の不健全解消のためには
高卒就職問題研究のtransactorlaboです。
もうすぐ令和4年も終わろうとしています。高校生の就職戦線はほぼほぼ落ち着いたころで、年を越すのはごく一部の生徒たちといったところです。
厚生労働省による9月末発表の数字では、今年の求人倍率は3.29倍。今年も超売り手市場の状態が続いています。少子化に加え、進学率が高くなっていますので、この状態はずっと続くでしょう。
求人倍率3倍越えとは、就職希望者が10人しかいないのに30人以上の需要があるという状態です。この状態が平成末期から5年以上続いているわけです。人材獲得競争のし烈さが増しているので、高卒初任給はさぞ上がっていることだろうと思うのが普通でしょうが、実際はそれほどでもありません。
平成31年までのグラフですが、今年令和4年7月求人の月給全国平均は17万7千円。5年間で7千円ぐらいしか上がっていません。実は、平成20年以降の高卒初任給の上昇は、求人倍率の動向によるものではなく、最低賃金の上昇によるものなのです。
このグラフは、ある地域の高卒初任給(縦棒)と最低賃金月給(赤折れ線:最低賃金月給×175時間)および求人倍率(緑折れ線)の推移を重ねたものです。青い折れ線は、最低賃金時給×1.2(最低賃金ギリギリ月給の2割増し)を表しています。175時間は一か月あたりの標準的な労働時間数です。
どうでしょう。高卒初任給の上がりかたは、求人倍率とはほぼ関係なく、見事に最低賃金の上昇に沿っています。何故こうなのかというと、理由は二つあります。
一つは、高卒就職市場が求人事業者が他社がどれぐらいの待遇条件(賃金や休日数など)を提示しているのか知ることができない構造だということです。これは、高卒求人票を見ることができるのが高校教員と、その管理下にある生徒に限るというルールによるものです。高校教員と生徒は求人票を閲覧できるので、どれぐらいの給料の求人票がどれぐらい出ているかを把握できる(簡単ではないのですが・・・)のですが、求人事業者の方は全く見ることができません。他社どころか、自社の求人票さえ見ることができません。つまり、求人事業者は相場が分からない状態に置かれているわけです。
もう一つは、「最賃チェック」の影響力です。高卒を採りたい求人事業者は、ハローワークに求人票を提出する際、必ず「最賃チェック」を通過しなければいけません。このチェックを通過できないと受理してもらえません。仮に、それ以下の状態で働かせると50万円以下の罰金を科せられます。
求人事業者は相場が分からない上に、厳格な最賃チェックを通過しなければなりません。よって、こういう状況になるのです。
これは、今年2022年のある地域の高卒求人の待遇度数散布図です。縦軸が年間休日数、横軸が月給です。私の手元には同地域の昨年のものもあり、それと比較したところ、散らばり具合に変化はほとんどありませんでした。求人倍率は今年も3倍を超えるだろうという予測情報は早くから流布していたのですが、フタを開ければこうでした。
求人倍率3倍以上の市場だということは、上位33%に入っていなければ人材獲得の可能性は極めて低いと考えるのが普通だと思うのですが、この散らばり具合はいかがなものでしょうか。この状況は、こうした事情に通じている(ごく一部の高校教員ですが)人の間では、「相場情報がないから最賃に引っ張られた求人票が大量に出る」、とか、「最賃に貼り付く」、と表現されています。
需要が急激に高まっているのに賃金の上昇が伴なっていない・・・これが高卒就職市場の不健全さです。この不健全さにより直接ワリを食っているのはもちろん、就職希望の高校生や若い労働者なのですが、実はそれだけではありません。
高卒初任給は地域別最低賃金を算定するための重要な指標の一つでもあり、また、大卒一般を含めた全ての労働者の賃金体系のベースとなるものです。つまり、この高卒初任給が妙な具合に上がりにくいことは全ての労働者の賃金上昇の足を引っ張っていると言えるのであります。
最賃の上昇が鈍いから高卒賃金の上がり方も鈍い・・・私はこれを「最賃と高卒賃金の負のループ」と呼んでいます。そして、それは般労働者の賃金上昇の足を引っ張ってもいる。
生産年齢人口の急激な減少により国家システムの危機が危惧されるようになった現在、若年層の所得増は極めて重要な政治課題となっています。とにかく若い世代の賃金をもっと上げないといけません。
高卒就職の古い枠組みがその障壁になっている可能性が強い。私はそう考えます。
どうしたらよいのかというと、まず、高卒求人情報を教員や生徒にだけでなく、一般に公開することです。そうすれば相場情報が今よりずっと行き渡るようになり、競争原理が働き、高卒初任給は上昇します。その動きは最低賃金の上昇を促すでしょう。
高卒就職市場の不健全さの元凶は、関係3者(生徒・仲介役である教員・求人事業者)間の情報格差です。相場感の認識は、その場のルールと同じく関係者の間で共有されなければならないものです。そうでなければ市場は公正に機能しません。放置してはいけない問題なのです。
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