高卒就職市場の現状と・・・
ごぶさたしておりました。高卒就職問題研究のtransactorlabです。
高卒就職市場では求人倍率が3倍や4倍もの高さのウルトラハイパー売り手市場が続いているにもかかわらず、賃金上昇が伴っていないことに疑問を持ち、その他のいろいろな問題も含めた高卒就職問題の改善を求めて研究と発信を続けております。
まず下のグラフをご覧下さい。ある地域の高卒初任給(黄色棒)と当該地域の最低賃金との相関関係を示すものです。赤線が最低賃金×8時間×21.5日の金額。青線はその2割増しの金額。緑折れ線はその年の高卒求人倍率です。
これまでの高卒初任給の推移を見ると、その上がりかたは需要よりも最低賃金との相関関係が強いことが分かります。これはつまり、「高卒初任給は最低賃金をベースにそれよりも少し上乗せぐらいでいいか」と考える求人事業者が大勢を占めているということです。
震災やリーマンショックなど不況続きで求人が少なかった平成25,6年あたりまでは、まあ、学校側の立場としてもそれでも採ってもらえればありがたかったのですが、平成30年あたりからはがらりと変わりました。
10年ほど前(平成25年ごろ)は公開求人すらも本当に少なかった。当時私が勤務していた高校に通う生徒が通勤できる範囲の求人は200件もなく、廊下の壁に貼り出していました。ホントにそれぐらい少なかったので、ひとつひとつの求人票を大事に大事に扱っていました。ところが今は昔の10倍。とてもじゃないですがいちいちプリントアウトなんかしていられません。コンピューターで給料や休日数などに一定のラインを設定してふるいにかけます。そうでもしないと生徒達が限られた期間内に選ぶことができないからです。
高卒求人は毎年7月1日に公開が開始されます。先生は一刻も早く生徒に閲覧を始めさせるため、当日朝から求人票データのダウンロードとプリントアウト、目次作りの作業を始めます。中には午前0時ピッタリから始める先生もいます。先生たちがいくら頑張っても1日や2日、ところによっては3~4日、場合によっては1週間もかかることがあります。
高卒の就職活動のひとつの山は応募前職場見学ですが、これはお盆前に行う必要があります。それは9月16日の就職試験解禁直後に多く行われる一発目の試験に間に合わせて応募するためには8月中に履歴書などの必要書類を整えねばなりませんし、またそれ以前に校長推薦の可否を決める職員会議を通過しないといけないからです。
求人公開が7月1日といっても生徒が実際に閲覧を開始するのは早くて数日後。お盆前までに見学を済ませたい。そのためのアポ取りにも1週間程度は必要。よって、就活高校生の7月から9月のスケジュールは必然的にこんな具合になってしまうのです。
7月第1週 求人票閲覧開始
7月第2週中に 応募前職場見学の希望先を先生に伝える
7月第3週 応募前職場見学のアポ取り、日取り決定、準備
7月第4週 夏休みに入ると同時に見学開始
8月第1週 応募前職場見学ほぼ終了
お盆休み前 志願先決定
お盆休み後 履歴書等の完成、推薦会議
9月初旬 応募書類発送
9月16日 就職試験開始
こんな感じですので、生徒が求人票の束をめくりながらじっくり選んだり悩んだりしているヒマなんて実はないのです。ではどうしているかというと、とりかかりが早い高校では3年生になる前から先輩たちが見た求人票を見てある程度候補を絞っておいて、7月に公開になってからはそのあらかじめ絞っていた候補の会社が求人しているかを確認、あるとわかったらすぐに応募前職場見学を願い出る、という形です。時間がないのでそうするしかないのですよ。
求人票が少なかったころは確かに一枚一枚の求人票をつぶさに見させていました。生徒の数も今より多くいましたので1発で内定をもらえる生徒も少なく、2回目、3回目と挑戦してもダメで年越し、4回目でやっと内定というケースも珍しくありませんでした。これが求人倍率1.5倍から2倍の時代。
しかし、求人票が大量に出るようになり、求人倍率が3倍超になった平成末期からはほぼ全員が1回で内定を得るのが一般的になり、12月まで残る生徒は公務員を第一志望にしているごくわずかな生徒のみという状況が続いています
今日は令和5(2023)年10月10日ですが、私が見ている高校でも就職希望者は一人を残して全員が内定をいただきました。その一人も会社側の都合で2次面接が延び延びになっているだけで99%大丈夫な子です。おそらく、どこの高校で似たような状況でしょう。
ここまでが本稿のタイトル「高卒就職市場の現状」に関するお話。
つづいて「・・・」なのですが、なんと表現したらよいのか適当な名詞が思いつかなくて「・・・」としてしまいましたが、強いて言えば「歯がゆさ」であります。
生徒の応募前職場見学先選びのフェーズが過ぎると生徒たちはもちろん、私たち就職指導教員も求人票の山を見る意欲はガクッとなくなります。9月中旬以降、初回の結果を待っているあたりになると、最近公開の求人票はどんなかんじか見てみようする余裕が少し出てきます。ちょうど今です。時期を同じくして、結構な数の会社から「2次募集の案内」とか「募集継続のお知らせ」、「生徒様ご紹介のお願い」などといった題名の文書が求人票といっしょに送られてきます。
後発求人票を見て感じる「歯がゆさ」
例の「・・・」、「歯がゆさ」とは、そういった後から出てくる求人票に対してです。待遇条件を上げてくるところがほとんどないのは何故なのでしょうか?
不遜な物言いになってしまうのは承知であえて申し上げます。
夏休み中の応募前職場見学の申し込みがなかった時点でその会社の求人作戦は失敗に終わったのです。9月10月に再度アクションを起こすにあたり、前回と同じ待遇条件を出したところで成功可能性はほとんどないと考えるべきではないでしょうか。文書郵送やその準備作業にかかる人的コストも結構なものでしょう。だから、再度送られてくる封筒を開けてその会社の求人票を見る度に、本気で採ろうとしているのかなという疑問を持つこともしばしば。
採用コンサル会社に文書発送を委託している会社さんも数多くあります。相当なお金を払っているんだろうなと思われますが、そういうのを見る度に「これにカネをかけるのをやめて、その分、従業員の給与体系改善に充てればいいのに・・・」なんてなことを思ってしまうのですよ。
いい条件の求人票には今年はなくても来年応募あるかも
就職希望者の数は年々減少し、逆に求人数は3倍どころか4倍、5倍に達する勢いで増えています。さらに前述のとおり、就活生のスケジュールは非常にタイトです。有名でもなく採用実績もない(学校側から見た)ご新規さん企業の求人が応募を獲得することはどんどん難しくなってきています。
しかし現在は求人票閲覧のやり方が昔の紙中心の方法からコンピューター上での条件検索が主流になったことで状況はだいぶ変わってきています。なぜかと言うと、コンピューターでの検索であれば条件さえ良ければ生徒の目に触れて関心を持たれるチャンスが増えたからです。また、その閲覧・検索は2年生も1年生もやります。だいたい2年生や1年生は「給料のいい順」とか、「休日数の多い順」といった単純な形から入りますので、それらの条件がよい求人票であれば有名だとか先輩が行っているとかはあまり関係ありません。
つまり、待遇条件が良ければ今年はなくても来年は応募があるかも・・・こんなふうに考えて勝負していただきたいと思うのであります。