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高卒就職問題 高卒就職情報WEB提供サービスの早期改善が必要な理由(2)

 高卒就職問題研究のtransactorlabです。
 前回は高卒就職情報WEB提供サービスの早期改善が必要な理由その1として、紙ベースの情報提供のあり方が教職員の多大な負担となっていることを上げました。
 今回は「その2 高卒就職市場および日本社会全体に対する悪影響」についてです。
 
 私の主張は以下のとおり。

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 高卒就職問題には様々あるが諸々の問題の根源は厚生労働省労働局所管の「高卒就職情報WEB提供サービス」の情報提供のあり方であり、次の二点の改善が必要だ。その改善が実現すれば、多くの問題が一気に改善にされる。

改善点1 
 提供情報の方式を現在の紙の形式を廃し、統計処理可能なデジタルデータベースの形にすること。

改善2 
 情報へのアクセス権を現在の教職員限定を改め、一般公開とすること。賃金・休日数などの待遇条件の相場が分かりやすい情報を求人事業者がいつでも入手できる状態を実現すること。

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 紙ベースの情報提供のあり方が教職員の多大な負担となり、それが教員の時間とエネルギーを奪っていることはご理解いただけたことと思います。
 また、求人情報が紙の形であることが、ただでさえ短い準備期間を圧迫し早期離職の一因となっていることも容易に想像できると思います。

 今回は改善案1に示した「統計処理可能なデジタルデータベースの形にすること」の重要性について詳しく述べたいと思います。

紙ベースの情報では統計処理が困難

 WEBサービスが提供する情報は個別の求人票PDFと不完全な一覧表CSVデータだけです。不完全というのは、個々の求人票とリンクしていない、労働日数が明記されていない、など、一覧表データとして不足が目立つものだからです。結局、教職員が一枚一枚の求人票を見ながら手打ちしなければ使えるリストにはなりません。
 問題は給料や休日数など、待遇条件の重要な点についての統計が極めて困難であり、全体の相場がわかる情報が「無いに等しい」ことです。

相場情報がないことの弊害

 WEBサービスへのアクセスは教職員限定です。これに加えて統計処理が困難な紙ベースの情報しかないことが市場全体の相場情報の欠乏を生んでいます。
 とくに問題なのは求人事業者が相場を知り得ない状態にあることです。相場情報が不足していますので賃金・労働時間・労働日数などの条件を検討する際の確定的な要素が地域別最低賃金しかないため、どうしても最賃寄りになります。高卒賃金は地域別最低賃金の算定の主要な要素です。低い最賃が高卒賃金上昇の抑制し、低い高卒賃金が最賃上昇の足を引っ張っている・・・このマイナスのループを相場情報の不足が成立させている。私はそう見ています。

 今年(令和3年)8月の調査では全国で約9万件の公開求人が出ていました。どこの地域も求人倍率が2.5倍を超えていますので、その地域の平均以上の待遇でなくては高校生に選んでもらえません。しかし待遇を分析したところ、約4万件(4.5%)が最賃チェックにひっかからなければいいや程度、最賃に1割上乗せした程度のものが約9万件(10%)でした。少なくとも私は生徒に勧めないな、そんな求人票が半分以上。

 求人事業者の方々を責めているのではありません。むしろWEBサービスのダメさの被害者で、求人側に相場情報が流れていないことの証拠として述べています。この状況の改善について求人事業者の方々も厚労省に対して強く要求するべきです。どれぐらいの待遇条件が必要なのか分からなくてはきちんとした採用計画を立てるのは難しいと思います。

ハローワークの責任とは

 都道府県ごと、さらに主な業種ごとの待遇分析をしていて気づいたことがあります。待遇のばらつきが業種によって大小の差が激しいことです。製造・建設・運送・飲食宿泊の4業種で調べていますが、その中では製造業が最もばらつきが小さく、建設業が最もばらつきが大きいことが分かります。これは、製造業では取引き関係の間で情報共有が活発に行われ、反対に建設業では少ないのかなと思われます。労働組合有無の観点では有意な差は見られませんでした。サービス業はもっとばらつきが大きくなると思われます。 

 下は愛知県の製造業と建設業の求人度数散布図です。両者を比較すると建設業では給与面(横軸方向)・休日数(縦軸方向)ともにばらつきが非常に大きいことが分かります。給与が16万円あたりを境に分布がはじまるのは、そこが最賃ラインだからです。年間休日数105日(月平均労働日数21.7日)が一般的な週休二日ラインです。下の愛知県建設業の右下には月給26万円・年間休日数75日の求人が見られます。75日というと月平均労働日数24.2日。日給換算で1万円を超えるのは高卒求人としては破格と言えますが、この休みの少なさでは今の高校生には避けられてしまいます。

愛知 製造

愛知 建設

 いずれにしても相場情報の不足は求人事業者にとっても不利益の元となっていると言えます。業界団体や地域労働組合連合など、何らかの団体が一定の目安を設定して周知するなどの対策も考えられますが、しかし本来その役目はハローワークが負うべきでしょう。ハローワーク自身がもっと積極的に統計値を公表するか、統計処理可能なデータを民間情報企業に渡して分析統計を委託するなどの方法が考えられます。

 WEBサービスのシステムが古いこと、アクセス権が教員限定であることの弊害がここにも表れているのです。求人側がまっとうな相場観を持てるように十分な情報提供を行うことはハローワークの責任だと思います。

高卒賃金と最賃 マイナスのループがもたらすもの

 高卒就職市場は最近3~4年求人倍率が2.5倍から3倍(地域によっては4倍)と高止まりしているにもかかわらず賃金がさほど上昇していません。大卒給与の推移は求人倍率との因果関係が強く表れますが、高卒では結びつきが希薄です。これは相場情報の不足が高卒賃金と最賃のマイナスのループの働きを強くしているためだと私は考えます。 高卒賃金は全ての労働者の給与体系のベースです。ということは、高卒賃金が上昇しにくい構造は全ての労働者の給与に同じ影響を与えるということになります。とくに強く影響を受けているのは20代の若者世代だと思われます。 また、最賃が上がりにくい構造でもありますので、アルバイトや非正規雇用労働者も大きな不利益を被っていることになります。 これらの考えに立つと、高卒就職情報WEB提供サービスのダメさは次のような我が国の将来を左右する重大な問題に波及しているのではないかという仮説が浮かんできます。

・都会と地方の賃金格差の拡大、人口流出、過疎
・若者や非正規労働者の低収入、貧困
・結婚数や出産数の抑制、少子高齢化の加速
・若年子育て層の低収入、教育格差、貧困の連鎖
・国の衰退

 すそ野が広すぎて因果関係の証明は難しいです。しかし、水源地に問題があれば悪影響は広範囲に及び、最悪の場合、流域全体の人間社会を破壊することもあります。WEBサービスを高卒就職情報の水源地とすれば、その悪影響は日本社会全体に及ぶと私は考えます。飛躍しすぎではないでしょう。

 また、これらの問題は、そのどれもがコロナほど緊急性はないが放置すれば国家が死に至る重大な病です。

 高卒賃金が上がらなければ25歳の社員の給料も上がりません。若い夫婦が互いの給料を合わせても余裕がない・・・おおかたがこのような雇用状態では少子高齢化に歯止めがかかるとは思えません。

 WEBサービスの情報提供のあり方をちょっと現代的にアップデートするだけで、これらの重大な問題に対してけっこうな治療効果がある、私はそう考えます。システムの変更に少々の予算と時間を要し、その後少々の混乱があるかもしれませんがメリットの方がはるかに大きい。

 みなさん、そう思われませんか?

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ホームページで高卒求人の待遇相場情報を公開しています。各都道府県ごとのデータをダウンロードできますので、ご活用ください。
https://transactorlab.wixsite.com/my-site-1/blog

高卒進路digitalで紹介していただきました。
https://note.com/kousotsu_shinro/n/n78fe5a4081df

日本経済新聞で取り上げていただきました。
「なぜ低い高卒初任給 「企業を見る目」デジタル化で養え」(デジタル版有料記事)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD2960H0Z20C21A6000000/
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