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高卒就職問題の改善に高卒就職情報WEB提供サービスの改善が必要な理由 その1

高卒就職問題研究のtransactorlabです。問題改善を目指して研究と提言を行っております。ネット上での発信もだいぶ溜まってきまして、いろいろな方々から賛同をいただいております。
 私の中でも考えが整理できてきまして、このへんでひとつまとめを書いてみようと思います。
 
 私の主張は以下のとおり。

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 高卒就職問題には様々あるが諸々の問題の根源は厚生労働省労働局所管の「高卒就職情報WEB提供サービス」の情報提供のあり方であり、次の二点の改善が必要だ。その改善が実現すれば、多くの問題が一気に改善にされる。

改善点1 
 情報提供の方式を現在の紙の形式を廃し、統計処理可能なデジタルデータベースの形にすること。

改善2 
 情報へのアクセス権を現在の教職員限定を改め、一般公開とすること。賃金・休日数などの待遇条件の相場が分かりやすい情報を求人事業者がいつでも入手できる状態を実現すること。

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 改善点の部分を読んで「え?今時、現状そんな状態なの?」と呆れる方が多いと思います。
 
 改善が必要な理由は沢山あります。それだけ迷惑している人が多いということですが、今回はまず、最も直接的に迷惑している私たち教職員の視点から書きたいと思います。
 
 高卒求人には、どこの高校の生徒でも応募できる「公開求人」と高校名を指定した「非公開指定求人」の二種類があります。公開の方は高校の先生がWEBサービスから求人票のPDFを学校でプリントアウトしたものを生徒に提示します。非公開のほうは、ハローワークからファックスで送られた紙を学校でコピーして掲示したりします。その他、学校を直接訪問した求人企業が求人票を置いていく場合もあります。


 問題はその枚数。都道府県ごとにばらつきはありますが公開求人が多いところでは5000件、少ないところでも1000は出ます。その他、学校ごとの指定求人があります。工業高校など多いところでは毎年500社もの求人票が寄せられます。就職支援に関わる教職員はこの大量の紙の求人票を処理しなければなりません。
 「処理」といっても、生徒が効率よく閲覧できるよう、また、後の応募事務のためにデータ化しなければなりません。これが大変な労力なのです。

 現在の求人票様式の例を示します。これが1000枚とか2000枚あって、会社名・住所・職種・給料・労働日数などを拾ってエクセルに手打ちするなんて信じられますか?
(高卒求人様式 おもて)

求人票の例おもて

(高卒求人様式 うら)

求人票の例うら

 一枚一枚の紙求人票に丁寧にナンバリング、必要部数を両面コピー、必要な冊数にファイリング、並行して手入力でのリスト(一覧表)づくり・・・。
 リスト作りは、求人票ナンバー、会社名、就業場所、業種、職種、賃金、休日数などの情報を紙から拾って手入力するのが一般的なやり方です。リストの情報が多いほど閲覧・検索の効率があがるので、なるべく多くの項目を揃えたいのですが、その分負担が増加します。
 求人票は7月1日公開されますが、一日でも早く生徒に閲覧を始めさせるために就職支援に携わる教職員は何千枚もの紙の求人票の山と格闘します。
 学校によってやり方は微妙に違いますが、基本的に紙ベースで手作業でのリスト作りの大変な労力を強いられていることは共通です。

データをわざわざ紙化して配給、受け取った側が再度手動でデータ化している

 「そんなバカな」と思われるかもしれませんが本当の話です。現在の高卒求人情報の流れはこうなっています。

 ・地域ハローワークが受付け、データ化

 ・厚労省中央サーバーに集積

 ・WEB提供サービス上でPDF形式で配布

 ・指定求人はファックスで送信

 ・学校はPDFをプリントアウト、ファックスできたものはコピー

 ・手入力でリスト作成、紙求人票をコピーして生徒に提示

 (令和2月からCSVデータ配信が開始になったが、労働日数データや個別求人票とのリンクがないなど不足な点が多い)

 こんな非効率が放置されていいわけはありません。

 紙になって送られてくる求人票に記載の情報は、もともとハローワークでの受付けの際にデータ化されたものです。現在のシステムは、それをわざわざいったん紙またはPDFにして学校に送り、データ化のためにまた手入力させている。しかも、たくさんの場所で同じ作業を行わせている。今の時代、こんなバカな仕事のさせ方がありますか?

 求人票の受付とデータ処理およびアウトプットのあり方を現代的な形にアップデートするだけでいいのです。所管である厚労省労働局がこれを怠ることは国民に対する背任に近い。

 3年前の平成30年7月、私が勤務する高校では1200件の紙求人票を処理しました。5冊の閲覧ファイルを作るのに8人の教員が休日出勤8時間。リストの方は翌週8人で分担して3日。平日は授業その他生徒の指導の合間や勤務時間外の時間での作業です。一人平均30時間以上、8人で240時間。教員の平均時間単価は2200円。合計52万8千円。公立学校の教職員には残業手当はありませんが、休日出勤や残業等を支払う組織ならばコストは2倍近くになるのではないでしょうか。教員の本来の仕事は授業と生徒の指導です。教員の時間とエネルギーはすべてそこに向けられるべきなのに、こんなムダが今も日本中の高卒就職支援の現場で続いているのです。

 3年前、もう2度とあんなバカバカしい作業はしたくないという思いから私はWEBサービス上で公開される求人情報を半自動的にデータベース化するコンピュータープログラムを開発しました。そのおかげで私の勤務する高校では公開求人が2000件あっても係の教員1名がPC1台で6時間あれば生徒の閲覧を開始できます。求人元の住所や募集担当者氏名等もデータベース化されるので後の応募書類作成事務の負担も大幅に軽減できます。私の概算では、人件費と物品コストは3年前と比較して少なくとも年間200万円の節約になっています。

 前述の2点の改善がなさされれば学校ごとの「再データ化」なんてムダな仕事がなくなり、浮いた教員の時間とエネルギーをより生徒のために振り分けることができます。

 就職支援業務をしている高校は全国に3,000から4,000あるといわれています。高卒就職情報WEB提供サービスに上記2点の改善がなされれば、いったいどれぐらいの効果が見込めるでしょうか。

 以上が、厚生労働省労働局所管「高卒就職情報WEB提供サービス」の改善が必要な理由の一番目、「教育現場に多大なムダな負担をかけていること」です。二番目、三番目と続きますが、この一番目だけでも根拠として十分すぎるぐらいだと私は思います。

 高卒就職問題は複雑ですそ野が広く、全容を理解するのが難しいのですが、求人情報をキーに据えるとひとつの流れであることがわかります。水源地に問題があると悪影響が広範囲に及ぶのと同じように、高卒就職市場おいては求人情報の水源地であるWEBサービスの問題が実に広い範囲に悪影響を及ぼしている。私はそのように考えています。 

みなさん、どう思われますか?

 

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ホームページで高卒求人の待遇相場情報を公開しています。各都道府県ごとのデータをダウンロードできますので、ご活用ください。
https://transactorlab.wixsite.com/my-site-1/blog

高卒進路digitalで紹介していただきました。
https://note.com/kousotsu_shinro/n/n78fe5a4081df

日本経済新聞で取り上げていただきました。
「なぜ低い高卒初任給 「企業を見る目」デジタル化で養え」(デジタル版有料記事)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD2960H0Z20C21A6000000/
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