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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.323~324

1月11日
ジュディへ

 2通お送りした海外電信の衝撃が大きすぎなければいいけど。最初の知らせは手紙にするつもりだったの、それなら事件の詳細もいろいろ書けるかもしれないと思ったし。でも、それより先に、ほかの経路であなたに知らせが行ってしまったら嫌だと思って。全体としては十分すぎるほどの大惨事だったわけだけど、一人が大怪我をしたっていう以外には、みんな命に別状ありません。100人以上の子どもたちが、火の回りやすい建物の中で眠っていたんだから、もっとずっと悪い結果にだってなり得たわけでしょう。それを考えると、体の震えが止まらない。新しい非常階段は、まったくの無駄になりました。風が階段へ向かって吹きつけたものだから、あっさり炎に包まれてしまったの。子どもたちは、みんな正面の階段から救出されました――でも、ここでいったん話を戻して、ことの起こりから始めるわね。
 金曜は1日じゅう雨で、建物の屋根は完全に濡れていたの。これについては神さまに感謝ね。夜にかけてはだんだん凍りつくような天気になって、雨はみぞれに変わったわ。10時になって私がベッドに入った頃には、北西の風が嵐みたいに吹き荒れて、建物のゆるんだ雨戸なんかがバンバン、ミシミシ音をたててた。で、2時頃に、いきなり何か明るい光が差しこんできて、一気に目が覚めたの。私はベッドから飛び出して、窓へ走りました。馬車置き場が炎の塊になって、私たちがいる建物の東側の棟に、火花が降りそそいでる。私はお風呂場に走って、窓の外に体を乗り出したわ。乳児室の屋根が、もう6か所ばかり燃え上がってるのが見えた。
 ああ、1分くらいの間は、心臓が止まってしまったようだった。私はあの屋根の下にいる17人の赤ちゃんたちのことを考えて、息もできずにいたの。ようやく、ガクガク震える膝にどうにか言うことを聞かせて、廊下に走ってもどりながら、自動車に乗るときに着るコートをひっつかみました。
 私がベッツィとマシューズ先生とスネイス先生の部屋のドアをどんどん叩いているうちに、私と同じように炎の明るさで目を覚ましたウィザースプーンさんが、なんとかコートをひっかけようとしながら、階段を2段飛ばしで駆け上がってきた。
「子どもたちを全員食堂へ。乳児を優先で。私は火災警報を鳴らします」
 私はハアハアしながら言いました。

(続く)

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