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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.306~307

(続き)

 子どもたちがあまりにも航海に興味をもちはじめたから、ドクターがひとつ企画を思いつきました。いちばん年上のしっかりした子たちを7人、1日ニューヨークへ連れていって、外洋航路船を実際に自分たちの目で見てもらおうっていうの。昨日の朝、その子たちは5時に起きて、7時半の汽車に乗って、これまでの7人の人生のうちでも最高に素晴らしい冒険をしてきたわ。大きな船のうちの1隻を訪ねて(サンディがスコットランド人の機関士と知り合いだったの)、船底からマストのてっぺんの見張り台まで案内してもらって、甲板でお昼を食べたそうよ。お昼ごはんのあとは水族館とシンガー・ビルの展望台へ行って、地下鉄で郊外へ向かい、アメリカの鳥たちの生息地で1時間過ごしてきたんですって。帰りは6時15分の汽車に乗らなきゃいけなくて、サンディは子どもたちを自然史博物館からひっぱり出すのにものすごく苦労したみたい。夕食は食堂車で。子どもたち、ものすごく細かく「この料理の料金はいくらか」って訊くんですって。で、いくら食べても金額は変わらないって返事をもらったら、大きく息を吸いこんで、提供者の期待を裏切ることなく、黙って一生懸命に食べてたって。鉄道会社にとっては、ちっとも儲けにならない客だったでしょうね。まわりの席にいた人たちは、みんな食べるのをやめて、ぽかんと子どもたちを眺めてる。ある旅行者の方がドクターに、寄宿学校の引率ですかって質問してきたそうよ。うちの子たちの礼儀作法や態度がいかばかり向上したか、これでわかるでしょ。自慢したいわけじゃないけど、これがリペット院長時代の子どもたち7人なら、誰もこんな質問してこなかったと思うわ。当時の子たちのテーブルマナーを見た人から出てくる質問なんて、せいぜい「これから感化院へ送られる子どもたちですか?」ってところだったんじゃない?
 10時近くになって、この団体さんは孤児院に転がりこんできました。みんな興奮ではちきれそう、複合エンジンや水密隔壁や、デビルフィッシュや高層ビルや極楽鳥の話なんかで、もう大騒ぎなの。この子たちを寝かしつけることなんて絶対無理って思っちゃった。ああ、でも、本当に素晴らしい1日だったみたい! こういう休日を、もっとしょっちゅう設けてあげられたらいいんだけど。そうすれば人生の見方が変わるし、より普通の子どもみたいになれるじゃない。サンディ、とっても優しいわよね。でも、私がお礼を言おうとしたときの彼の態度、あなたにも見せてあげたかった。まだお礼を言い終わってもいないのに、私を手で追いやって、スネイス先生に、石炭酸をもっと節約できないものですかねってぶうぶう文句を言うの。屋内が病院みたいなにおいになってたから。

(続く)

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