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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.320

1月1日
ジュディへ

 なんだか、ものすごく妙なことが起こって、私としても本当にそれが起こったんだか、はたまた夢を見ていただけなのかわからないの。はじめから話すわ、それでこの手紙は燃やしちゃってちょうだい。ジャービスさんの目に触れると、ちょっとまずい感じだから。
 トマス・キーホーの話をしたことがあったのは覚えてるわよね、去年の6月に働きに出した子。彼は父親のほうでも母親のほうでもアルコール中毒の遺伝をもっていて、赤ん坊の頃も、ミルクじゃなくてビールで太らされていたみたいなの。9歳でジョン・グリア孤児院に入って、記録帳によれば、酔っぱらう事件を2回も起こしてる。1回はどこかの労働者から盗んできたビールで、1回は(このときはひどかったみたい)料理用のブランデーで。彼をここから出すにあたって、私たちがどれほどの不安を抱えていたかわかるでしょう。でも私たち、彼を引き取ってくれるご家庭(勤勉で温和な農家でした)にしっかり警告して、うまく行くように祈ったわ。
 昨日、そこのお宅から電報が来て、もう彼を置いておくことはできないっていうの。6時に着く汽車に乗せたから、迎えにきてもらえないか? って。ターンフェルトが、6時の汽車に合わせて駅へ行くでしょ。誰もいない。私、トマスがこちらへは来なかった旨と、事情を詳しく教えてほしい旨を、夜間電報であちらに送りました。
 昨夜はいつもより遅くまで起きて、机の上を片づけたりしてた――新年に向けて、気持ちを整理するような意味合いで。もうすぐ12時になろうっていうところで、急に、もう遅い時間だしずいぶん疲れたなって気がついた。それで寝る準備を始めたところで、玄関の扉がバンと音を立てて、私、飛び上がったわ。窓から顔を突き出して、そこにいるのは誰って声をかけると、
「トミー・キーホー」
 っていう、震える声が返ってきた。
 階下へ行って扉を開けると、彼が転がりこんできました。16歳だっていうのに、ぐでんぐでんに酔ってる。でも、よかった! パーシー・ウィザースプーンさんが、すぐ声の届く屋内にいてくれたのよ、離れたインディアン・キャンプのほうじゃなくて。私はパーシーさんを起こして、一緒にトマスを客間へ運びこみました。建物の中で、しっかり隔離しておける部屋はここしかないから。それから、1日の仕事を終えて疲れているところを申し訳ないとは思ったけど、ドクターに電話しました。彼はすぐ来てくれて、そこからはひどい夜になりました。あとでわかったことだけど、この子は荷物の中に、雇用主から盗んできた塗り薬のびんを1本入れていたの。この塗り薬っていうのは、アルコールとマンサクの汁を半々で混ぜたもので、トマスは道中、これを飲んで元気を出していたわけ!

(続き)

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