ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.303~304
(続き)
土曜日 朝
2日前にはこの手紙を投函してるはずだったんだけど、いまこうして何巻も続きを書いてあるのに、投函しないまま。
昨夜は、たまにある、だまし討ちみたいな嫌な夜で――ベッドに入るときは寒くて凍りつきそうだったのに、暗闇の中で目を覚ましたときには、何枚も重なった毛布に押しつぶされて、暑さでぐったり。余分な上掛けをはいで、枕をふくらませて寝心地よくしたところで、風通しのいい乳児室でしっかり布団にくるまれてるはずの14人の赤ちゃんたちのことを思い出しました。いわゆる夜勤の保母さんがいるんだけど、いつも一晩中ぐうぐう寝てるの(この次に「辞めさせたい人リスト」に載るのはこの人)。だから私、もう1回起き上がって、赤ちゃんたちの毛布をどけてあげるべく、ぐるっと一巡。それが終わる頃には、すっかり目が覚めちゃった。夜じゅう起きてることは滅多にないんだけど、そうなった場合には、私、世界じゅうの諸問題を解決しちゃうの。妙なことに、暗闇の中で横になって目を覚ましてるときって、ものすごく頭が冴えるのよね。
私はヘレン・ブルックスのことを考え始めて、彼女の人生を最初からやり直すとしたら……って計画を立ててみました。あの不幸な話が、どうしてこんなに心にひっかかっているのかわからない。婚約したばかりの若い女性にとっては、考えるだに気の滅入るような話題よね。「もしゴードンと私が、本当によくよく知り合うようになって、お互いに好きだと思ってる気持ちが変わってしまったらどうする?」って、ずっと自分に問い続けてる。私の心は恐怖にわし掴みにされて、干からびてしまいそう。でも、私は彼と結婚しようとしてる。その理由は、彼を愛してるから、ただそれだけ。私はそこまで野心的な人間じゃない。彼の社会的地位や財産が魅力だと思ったことなんてない。それに、結婚するのは、断じて生きがいを見つけるためでもない。むしろ、結婚のために、私は自分の好きな仕事を捨てなければいけないんだから。私、本当にこの仕事が好き。国家をつくり上げてるような気分で、一生懸命に赤ちゃんの将来設計をして走り回ってるの。私の人生に今後どんなことが起こるにしても、ここで素晴らしい経験を積んだことは、私の能力をもっと高めてくれると信じてる。そうなの、これって素晴らしい経験なの。孤児院が私を人間に近づけてくれるのよ。毎日あまりにもたくさんの新しいことを学ぶものだから、毎週土曜日の夜になって、先週の土曜日の夜にはサリーはどうしてたかしらって振り返ってみると、1週間前の自分の無知さにびっくりしてしまう。
(続く)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?