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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.327~328

(続き)

 一方、孤児院に残った我々の間では事件が起きていました。到着したドクターがまず言ったのは
「子どもの人数は数えましたね? みんないますか?」
 だったのね。
「避難する前に確認しました、寄宿舎はどこも空です」
 って私は答えた。
 でもねえ、あんな混乱した中で数えられるわけないじゃない? 男の子たちはまだ20人くらい屋内にいて、パーシー・ウィザースプーン氏の指揮のもと、衣類や家具を外に出そうと頑張ってる。年長の女の子たちは、靴の山から探し出してきた靴を、裸足のまま走り回ったり、おびえて泣いたりしてる小さな子に履かせようとしてる。
 それでもどうにか、自動車7台くらいに子どもたちを詰めこんで送り出したところで、ドクターがいきなり大声をあげました。
「アレグラはどこだ?」
 おそろしい沈黙が流れました。誰もアレグラを見ていないの。そこでスネイス先生が立ち上がって悲鳴をあげました。ベッツィがその肩をつかんでゆさぶり、話を聞き出そうとします。
 どうやらスネイス先生は、アレグラがちょっと咳をしてると思ったようなの。で、寒いところに寝かせたらいけないと思って、アレグラのベッドを、風通しのいい乳児室から貯蔵室へ移動させて――そのまま忘れてしまったの。
 ああ、ジュディ、貯蔵室がどこにあるか知ってるでしょ! 私たちはみんな、血の気の引いた顔を見合わせました。このときには、東棟は完全に焼け落ちて、3階へ上がる階段が炎に包まれてた。あの子がまだ生きている可能性は、まったくなさそうでした。最初に動いたのはドクター。廊下の床にびしょ濡れで積んであった毛布の山から1枚ひっつかむと、階段へ向かって駆けだしました。私たちは、戻ってくるよう叫びました。だって、そんなの自殺行為だもの。でも彼は止まらず、煙の中に消えていきました。私は外に飛び出して、屋根の上にいる消防士さんたちに大声で呼びかけました。貯蔵室の窓は、成人男性が通り抜けられるような大きさではないし、そこから風が吹きこんでしまうと大変だから、誰も開けてなかった。
 このあとの苦しい10分間に、何があったのか書き尽くすことはできません。3階へ上がる階段は、ドクターが通過した5秒後に、大音声と炎を上げて崩れ落ちてしまいました。私たち、もうドクターはだめかと思った。そのとき、芝生にいる人たちのほうから叫び声があがりました。ドクターが、屋根裏部屋のあかり取りの窓から一瞬だけ顔を出して、消防士に、「はしごをかけてくれ!」と怒鳴ったの。彼の姿はすぐに見えなくなり、私たちは、きちんとはしごをかけることなんてできないんじゃないかと思いました。でも、どうにかはしごはかけられて、消防士2人が上がっていった。窓が開いたことでぶわっと風が起こって、この2人は、吹き出してきた大量の煙にほとんど圧倒されてしまったわ。永遠とも思われる時間が過ぎたあと、ドクターが、腕に白い包みを抱えてまた姿を現しました。彼はそれを消防士に手渡して、よろよろと下がったかと思うと、また視界から消えていったの!

(続く)

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