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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.316~317

火曜日
 その瞬間に頭の中でバーッと渦巻いてることを、なんでもかんでも口に出さなきゃ気がすまない、しょうもないひとがいるのよね。面白くない? そういう人たちって、ちょっとした話題でも口に出さずに残しておくってことができないし、天気の話をするためには緊急の話題も混ぜずにはいられないのよ。
 ここからは、今日あった訪問客の話。ある女性が、妹さんの子どもを連れてきたの。妹が結核で療養所に入ったから、治るまでは子どもをここで預かってほしいっていうことだった。残念ながら私が聞いた感じじゃ、治るってことはなさそうだけど。まあとにかく、諸々の手続きが終わって、あとはその女性がお嬢ちゃんを引き渡しておしまい、っていうところまで来ました。ところが汽車の時刻まで2、3時間あったものだから、彼女は孤児院の中を見学したい、みたいなことを言ってきたの。私は彼女を幼児室に連れていって、このリリーちゃんが寝ることになる小さなベッドを見せたり、ウサギが跳ね回る黄色い食堂を案内したりしたわ。お気の毒な妹さんに、明るい部分をできるだけたくさん報告してもらえればいいと思って。そのあと、女性が疲れたように見えたから、私は儀礼的に、私の応接間でお茶でも一杯いかがですかって誘った。ちょうどマクレイ先生が近くにいて、おなかを空かせてるような感じだったから(彼にしては珍しいんだけど。最近じゃ、月に2回くらいはここの職員とお茶を飲んでるの)、彼も一緒に来て、ちょっとしたお茶会になりました。
 この女性、場を盛り上げるのは自分に課せられた任務だと感じてしまったみたいで、彼女の夫が映画館の切符売りの娘を好きになってしまった(「厚化粧で、黄色い髪の、牛みたいにくちゃくちゃガムを噛んでる娘ですよ」っていうのが、この魔性の娘の描写です)、という話をしてきたわ。夫はお金をみんなこの娘につぎこんで、酔っぱらったとき以外は家に帰ってこないうえ、帰ってきたときには家具を叩き壊すんだとか。彼女が結婚前から持っていた、お母さまの肖像画が載っていたイーゼルは、ただ「壊れる音を聞いたら愉快だろうから」という理由だけで投げ捨てられたんですって。

(続く)

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