ジーン・ウェブスター「あしながおじさん」ペンギンブックスp.106~107
(続き)
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上記の4日後
マグノリアにて
ここまで手紙を書いてあったときに、何があったと思います? メイドが、ジャービーぼっちゃまの名刺を持ってきたんです。この夏、ぼっちゃまも海外に行くんですって。ジュリアや彼女の家族と一緒なわけじゃなくて、完全に一人で。私、ぼっちゃまに、女の子たちを何人か引率するご婦人と一緒に私も海外へ行くよう、おじさまから声をかけていただいた話をしました。彼はおじさまのことを知ってましたよ。つまり、私の父も母も亡くなっていて、親切な紳士が私を大学にやってくれているっていうことを、です。ジョン・グリア孤児院のことや、そのほかのいろいろなことは、私からはちょっと話す勇気が出ませんでした。ぼっちゃまは、おじさまは私の後見人で、私の家族とは昔から正式な付き合いのあった方だと思っています。私、おじさまのことを知らないとは話せていません――だって、そんなの変でしょう!
ともかく、彼はぜひ私もヨーロッパに行くよう勧めてきました。洋行は私の教育の一貫として必要なことだし、それを断るなんてもってのほかだと言うんです。それに、自分も同じ頃にパリにいるから、ちょいちょいその引率のご婦人の目を逃れて、素敵な外国のレストランで一緒に食事をしたりできるじゃないか、って。
ああ、おじさま、これは本当に魅力的なお誘いでした! 私、もうちょっとで陥落するところでした。もし彼が、こんな上から目線の物言いをしてこなかったら、たぶん完全に負けちゃってたと思います。私、順を追って説明されればその気になるんですけど、強制されると嫌になっちゃうんです。ぼっちゃまは、私が浅はかで、思慮がなくて、道理をわきまえなくて、非現実的で、ばかで、頑固なお子ちゃまだって言いました(これは、私に向けられた暴言のごく一部です。残りは忘れました)。私は何が自分にとってよいことなのか判断できないんだから、年長者の判断にゆだねるべきなんだと。私たち、ほとんど口論に近い状態でした――もしかすると、実際にあれは口論だったのかもしれません!
そんなことがあって、私はすぐにトランクに荷物を詰めこんでここへ来てしまいました。この手紙を書き終える前に、自分が後戻りできないよう、退路となる橋を燃やしてしまってよかったんだと思います。もう、そんな橋は完全に灰になって燃え尽きてしまいました。いま私はクリフ・トップ(パターソン夫人の別荘の名前です)にいて、荷ほどきも終わりました。フローレンス(妹のほうです)は、早くも名詞の語形変化に四苦八苦しています。ここで四苦八苦するなら、見込みがあります! この子は、めったにないほど甘やかされた子で、私はまず、どうやって勉強するかというところから教えなきゃいけないようです――これまでの人生で、クリームソーダのことより難しい話に感心を向けたことがない、というような子ですから。
勉強部屋としては、崖の上の静かな一角を使っています――パターソン夫人が、できるだけ子どもたちを屋外にいさせてほしいと言うので。でも私は発見しました。青い海と、海を行く船を目前にしてしまったら、勉強に集中することなんて無理ですね! 自分もあの船のどれか一隻に乗って、外国へ行っていたのかもしれないと思うこともありますが――でも私は、ラテン語の文法のこと以外は考えないようにしています。
前置詞a、ab、absque、coram、cum、de、eあるいはex、prae、pro、sine、tenus、in、subter、sub、superは、奪格を支配する。
どうですか、おじさま。私はすっかり仕事一筋になって、誘惑からはしっかりと目を背けています。どうか怒らないでくださいね、そして、私がおじさまに感謝していないだなんて思わないでください。私、おじさまに感謝しています――いつも――いつでもです。私がおじさまにご恩返しできる唯一の道は、有用な一市民(女性も市民ですか? そうじゃないかもしれませんね)になることなんです。とにかく、有用な人間になること。おじさまが私を見て、「私があの有用な人間を世に送り出したんだ」と言えるようにね。
これって素敵じゃないですか、おじさま? でも私、おじさまに勘違いをさせたくはありません。自分がまるっきり優れたところのない人間なんじゃないか、という考えは、しょっちゅう私の頭に浮かびます。将来の計画を立てることは楽しいんですけど、かなりの確率で、私も世間の人たちとなんら変わりのない、当たり前の人間になってしまう気がします。葬儀屋さんとでも結婚して、夫や夫の仕事を支えるだけの人生で終わるのかもしれませんね。
ジュディより
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