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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.135~137★初回

マサチューセッツ州ウスター
ストーンゲイト荘
12月27日

ジュディへ

 お手紙届きました。びっくりして2回読んじゃった。ジャービスさんからあなたへのクリスマスプレゼントが、ジョン・グリア孤児院を模範的な施設に改革する事業で、それで、あなたはそのお金をつかう役目に私を選んだ、ってこと? 私が――このサリー・マクブライドが、孤児院の院長! ――かわいそうに、気がふれちゃったのね。じゃなかったら、二人そろって阿片中毒になっちゃって、熱にうかされて幻覚を見ながらうわごとでも言ってるんじゃない? 私が100人の子どもの面倒を見るだなんて、私が動物園の園長になるってくらいぴったりなお役目ですことねえ。
 しかも、興味深いスコットランド人のお医者さんとやらで私を釣ろうっていうの? 親愛なるジュディ――そして親愛なるジャービスさん――もうわかってるんだから! ペンデルトン家の炉端で、どういう家族会議が行われたんだか、私にはばっちりわかってますよ。
「大学を卒業してから、サリーがたいしたこともせずに暮らしてるのは、残念なことじゃない? あんなしょぼくれたウスターの社交界で時間を無駄にするんじゃなくて、何か有意義なことを始めるべきよ。それに(これはジャービスさん)サリーは例の、超絶ハンサムで魅力的で女好きなハロックとかいう青年に興味をもち始めてるようだけど、僕は政治家なんてものは嫌いなんだ。この危機が通り過ぎるまで、僕らは、何か高尚で夢中になれるような仕事のほうに彼女の心を向けさせてあげなきゃいけないよ。ああ! わかったぞ! 彼女をジョン・グリア孤児院の院長にしてしまおう」
 あー、自分がその場にいたみたいに、彼がそう言ってるのがはっきり聞こえるわ! いちばん最近あなたの楽しいご家庭を訪問したとき、ジャービスさんと私、① 結婚について ② 政治家がもっている低俗な理想について ③ 上流婦人の軽薄で無益な人生について という話題で、とっても真面目に話し合ったんだもの。
 あなたの品行方正な旦那さまにお伝えください。私は彼の言葉を深く胸にきざんで、あのあとウスターに戻ってきて以来、週に1日の午後は、女子アルコール依存更生施設の収容者と詩の朗読会をしています、って。私、傍目に見えるほど無目的に生きてるわけじゃないんですよ、って。
 それに、あの政治家の彼は全然あぶない人なんかじゃないし、ともかく、とっても理想的な政治家であることは保証しますから。ま、関税とか単一税とか労働組合主義なんかについては、ジャービスさんとは若干ちがう意見をもってるにしても。
 私が公益に人生をささげることを願ってくれるなんて、ジュディは本当に優しいのね。でも、ちょっと孤児院側の目線から考えてみてよ。あなたには、かわいそうな、よるべない小さい孤児たちに対する同情ってものはないの?
 もしあなたになかったとしても私にはあるから、謹んでお申し出を辞退させていただく所存です。
 だけど、ニューヨークにあなたを訪ねていくっていうのは魅力的なお誘いだから、そっちはお受けします。と言っても、あなたの楽しい企画一覧にわくわくしてるわけじゃない、ってことだけははっきり言っておくわ。
 ニューヨークの孤児院やら孤児を預かる病院やらを訪問するっていう企画を、お芝居とオペラと夕食会に変更してくれない? 新しい夜会服2着と、白い毛皮の襟のついた、青と金のコートがあるんだけど。
 この服ぜんぶ、すぐに荷造りしてくるわ。だから、もしあなたが「ただの私」に会いたいんじゃなくて、「リペット院長先生の後任としての私」に会いたいっていうだけなら、すぐ電報を打ってそう言ってね。

かしこ

軽薄きわまりない、
かつこのまま軽薄を貫くつもりの、
サリー・マクブライド
 
追伸
 あなたのご招待、すっごくいいタイミングだったわ。ゴードン・ハロックっていう素敵な若手政治家さん、来週はニューヨークにいるはずだから。彼のことをもっとよく知ったら、あなただって絶対に気に入ってくれるはず。

追伸2
 ジュディが見たがってる、サリーが午後の散歩をしている図。
【挿画あり】

もう1回訊くけど、あなたたち気でもふれちゃったの?

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