ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.303
(続き)
旧弊な、正統派の考え方をする人なら、これしきの悪意のない出来事が原因で離婚するなんてひどい、って思うのかもしれないわね。私も最初はそう思った。でも、あとからあとから出てくる細かいエピソードを聞いているうちに、ひとつずつは全然たいしたことじゃないんだけど、それが山のように積み重なってしまったら、やっぱりそのまま結婚を続けるのは難しいだろうってヘレンに同感しちゃった。実際は結婚なんかじゃなかったのよ、ただの間違いだったの。
そんなわけで、ある日の朝食の席で、もうすぐ夏だけどどうやって過ごそうかなんて話題が出たときに、彼女は本当に何気なく、西部へ行って、正当な理由さえあれば離婚が許される州に住みたいわ、って言ったんですって。で、この数か月間で初めて、彼も彼女の意見に同意したの。
ヘレンの、ビクトリア朝時代みたいに古風なご両親がどれだけ激怒したか、想像つくでしょ。アメリカに居住して以来7代続くこの家系において、代々伝わる聖書*にこんな記録がされたことはかつてなかった。それもこれも、ヘレンを大学なんてところにやって、エレン・ケイだのバーナード・ショーだのいう、なんだか恐ろしい近代かぶれしたような人間の本ばかり読ませてしまったせいだ、って。
「せめて、彼が飲んだくれて、私の髪をつかんでひきずり回してくれたのならよかったんだけど」
と、ヘレンは残念そうに言ってた。
「それなら立派な離婚理由になるもの。でも私たち、実際にものを投げ合ったりしたわけでもないし、どうして離婚しなきゃいけなかったのかなんて、誰にもわかるわけないわね」
この一連の離婚劇で悲劇的なのは、ヘレンもヘンリーも、この相手じゃないほかの人のことなら、きっと幸せにすることができたということ。ただ、この2人ではそれがかみ合わなかったのよ。2人の人間がうまく合わなかったら、世界じゅうのどんな儀式をもってしても、結婚させることなんてできないわ。
(続く)
*訳注 代々伝わる聖書=Family Bibleと呼ばれる、大型の聖書。アメリカのクリスチャン家庭においては、一家に一冊この聖書があり、家族の結婚・出産といった出来事が記録されて代々受け継がれるようになっている。
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