ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.283~284
(続き)
11時30分
さっきまで、ゴードンに夕食をごちそうしてたの。ベッツィとリバモア夫人とウィザースプーンさんもお招きして。ドクターのことも礼儀正しくお誘いしたんだけど、すげなく断られちゃった、社交の気分じゃないって。我らがサンディは、事実を婉曲表現で覆いかくすようなことはしない人よ!
間違いなく、ゴードンは人類史上最も華のある人物だわ。風采もいいし気さくだし、思いやりがあって頭の回転が速くて、礼儀作法にも非の打ちどころなし――ああ、結婚したら、きっと素晴らしい装飾用の旦那さまになるわ! でもねえ、結局のところ、夫とは生活をともにしなきゃいけないのよね。晩餐会やお茶会で見せびらかしておくだけ、ってわけにもいかないわ。
今夜の彼は、いつになく素敵だった。ベッツィもリバモア夫人も、すっかり彼にお熱――私もちょっとばかり。ジャワの世話をどうするか、っていう件では、公式の演説みたいに熱弁をふるってくれました。あのお猿さんをどこに寝かせるかが決まらなくて、私たちずうっと困ってたのよ。で、ゴードンは反論の余地なしの理詰めで来たわ。いわく、ジャワはジミーから贈られた猿である、ジミーはパーシーさんの友人である、ジャワはパーシーさんと一緒に寝ればいい、と。ゴードンは生まれついての弁論家だわ、聴衆がいるとシャンパンを飲んだみたいに調子づいてくるの。たかが猿1匹についての話題だって、国のために血を流した最も偉大な英雄について話すのと同じくらいの真剣さで、熱を入れて討議するのよ。
ゴードンが、「孤児院の燃料置き場で眠れぬ夜を過ごしながら、遠く離れた熱帯のジャングルで自分の兄弟たちが遊ぶ姿を思い浮かべて、ジャワはどれほど寂しい思いをしていることか……」なんて言ったところでは、私、涙が出そうになっちゃった。
あれだけ話術に長けている人は、将来有望だわ。20年後には私、大統領選で彼に投票してるはずよ、間違いない。
私たち素晴らしい時間を過ごして、107人の孤児たちがすぐそこで眠ってることなんて、この3時間まるっと忘れてしまいました。子どもたちのことは大好きだけど、それと同じくらい、ときどきは子どもたちから離れることも楽しいんだもの。
お客さまたちは10時に帰られて、たぶんいまは真夜中(ねじを巻いて8日経ったから、時計がまた止まっちゃった。金曜日が毎週めぐってくるのと同じ正確さで、ジェーンはねじを巻くのを忘れちゃうの)。でも、遅い時間だってことは確か。女性のたしなみとして、美をつくる眠りに入らなきゃいけない時刻です。とくに、ちょうどいい結婚相手候補が手近にいるときにはね。
この手紙は明日書き終えることにするわね。おやすみなさい。
(続き)
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