ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.312~313
(続き)
夜
私が、身寄りのない子どもの養育にかけては権威だって、知ってる? 明日、私とほかの専門家の方々で、ヘブライ保護協会設立プレザントビル孤児院(これがぜんぶ名前なのよ!)を公式訪問することになりました。ここから向かうとなると、すごく行きにくいところだし遠回りしなきゃいけないしで、夜明けに出発して、電車を2台乗りついで車も拾っていくのよ。でも、もし私がその道の権威だってことになるなら、それにふさわしい振る舞いをしなきゃね。よその施設を見学して、来年のうちの改築へ向けて、なるべくたくさんのアイデアを集めてきたいと思ってる。プレザントビルの孤児院は、模範的な建物なのよ。
いまになって冷静に振り返ると、うちの大々的な建設作業を来年の夏まで延期したのは賢明だったかも。もちろん、がっかりはしたわ。だって、その頃には、私は改革の中心にはいないってことになるじゃない。私、改革の中心にいるのが大好きなのに! でも、私が表向きには責任者じゃないってことになるにせよ、私の意見は聞いてもらえるわよね? すでに完成した2棟は、こまかい部分まですごく期待がもてそう。新しい洗濯室は、どんどんよくなってる。これで、孤児院が慣れ親しんだ、あの湿気たようなにおいから解放されたわ。農夫の家は、やっと来週から住めるようになります。いまのところ足りないのは、塗装と、ドアノブがいくつかだけ。
ところが、もう! また! べつの問題が勃発! ターンフェルトの奥さん、あんな優しそうな見た目と明るい笑顔に反して、子どもが騒いでるのが大っ嫌いだっていうの。神経にさわるんですって。ターンフェルト自身について言うなら、真面目で几帳面で庭師としては有能だけど、精神面については、私が望んでたとおりってわけではないかな。彼が最初に来たとき、私、書斎にある本は自由に読んでいいって言ったの。彼は扉の近くにある本からまず手をつけたわ、37巻もある「パンジー*」。で、結局4か月もパンジーを読んでたから、私、気分を変えたらどうかって「ハックルベリー・フィン」を持って帰らせたの。でも彼、数日後にこの本を返しにきて首を振ったわ。パンジーを読んだあとだと、ほかの本を読んでも面白く感じないって。残念だけど、もうちょっと先進的な感覚の人を探さなきゃいけないかしら。とは言っても、少なくともステリーに比べたら、ターンフェルトは教養ある人物だけど!
ステリーといえば、何日か前に、すこぶるしおらしい態度でここを訪ねてきたのよ。彼が管理を任されてた地所を所有する「町のお金持ち」氏は、もう彼の手が不要になったんですって。それで、ぜひ孤児院へ戻ってきたい、子どもたちがそうしたいと言うなら、畑を使わせてやってもいい、と丁寧に言ってきました。私は優しく、でもしっかり理由を説明して、彼のお申し出はお断りさせていただきました。
(続く)
*訳注 パンジー=アメリカの小説家イザベラ・マクドナルド・オールデンが編集していた、キリスト教の青少年向け雑誌。
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