ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.343~344
(続き)
金曜日
今日、ドクターに会ってきました。包帯でぐるぐる巻きにされていて、見るだにお気の毒な様子だった。でも、どうにか、私たちはここまでのすれ違いをみんなもとの軌道にのせることができました。それなりに言語理解力のある2人の人間が、自分たちの心理的なありようをお互いにまったく伝え合えないなんて、悲惨じゃない? 私も彼の考えてることは最初から理解できなかったけど、彼のほうは、いまだに私の考えてることを理解できないみたい。私たちみたいな北方の人間って、なんだってこう、冷厳な沈黙を守ろうと頑張っちゃうのかしらね! 結局、私にわかるのは、南国の、思うところを小出しにしていく安全弁方式がいちばんいいってことよ。
だけどね、ジュディ、こんなひどいことが――去年、彼が精神病院を訪問して、そのまま10日も向こうにいて、私がばかみたいに大騒ぎしたことがあったじゃない? ああ、それなんだけど、私なんてことしちゃったのかしら! 彼は、奥さまの葬儀に行っていたの。あちらの病院で亡くなったんですって。マクガーク夫人は、ずっとこのこと知ってたのよ。私に何か言うときに、ついでに教えてくれればよかったじゃない。なのに、教えてくれなかったの。
ドクターは、とてもおだやかに、奥さまのことを話してくれました。お気の毒に、何年も何年も苦しんできたようで、奥さまが亡くなったことで少し肩の荷がおりたんじゃないかしら。彼の話によると、結婚した時点ですでに、彼女と結婚すべきではないとわかっていたそうです。彼女の精神が不安定なことを知っていたから。でも、自分は医師であるし、それを乗り越えられるんじゃないかと思ったそうなのね。何より、彼女は美しかったし! 彼は都会で開業することを諦めて、彼女が療養できるよう、田舎へ移ってきたの。でも、あの小さな女の子が生まれたあとで、彼女の精神はばらばらになってしまった。それで、マクガーク夫人の言葉を借りるなら、「遠くへ片付けて」おかなければいけなくなったんですって。女の子はいま6歳で、見た目には、可愛らしくて美しい子なんだけど、彼の話から察するに、かなり何かあるみたい。いつも、ベテランの看護師をそばにつけてるんですって。考えてもみて、これだけの悲劇が、かわいそうに、あの忍耐強くて優しいドクターの身に覆いかぶさってるのよ。この世でいちばんの短気な方なのに、そんなにも忍耐強くしてらっしゃるなんて!
ジャービスさんに、お手紙ありがとうってお伝えください。ジャービスさんは本当にいい方ね、彼のよさに見合うだけの結果が得られているようで私も嬉しいわ。あなたたちがシャディウェル荘に戻ってきて、一緒に新生ジョン・グリア孤児院の計画を立てられたら、どんなに楽しいかしら! 私、去年1年間はずっと勉強をしていて、いまやっと始める準備が整った、という気がしています。かつてない、最高の孤児院にしましょうね。私もう、未来のことを考えるとあまりにも嬉しすぎて、朝になると跳び起きて、心の中で歌をうたいながら、いろいろな仕事をこなしてるのよ。
ジョン・グリア孤児院から、生涯最高の友人お二人へ祝福を!
アディオ!
サリー
★次回、最終回です。