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ジーン・ウェブスター「Dear Enemy」ペンギンブックスp.322~323

1月3日
ゴードンさま

 不満に思われてもしかたありません。私、あなたが満足できるようなラブレターは書けないんですもの。エリザベス・バレットとロバート・ブラウニングの往復書簡集をちらっと読んだだけでも、私の文体の熱量はどうやら標準以下だってわかってしまう。だけど、あなただってもう知ってるでしょう――ずいぶん前から知ってるはずだわ――、私、そんなに情熱的な人間じゃないの。もっと、「起きているときはいつだってあなたのことを思っています」とか「私の愛する人、あなたがそばにいるときだけ、私は生きていると感じられるのです」とか、そんな感じのことをつらつら書けばいいんでしょうね。でも、こんなの全然本当のことじゃないんだもの。私の心はあなたでいっぱいじゃないのよ、107人の孤児たちでいっぱい。それに、あなたがそばにいてもいなくても、私はこうして明るく生活していられます。私は自然体でいたいの。あなたも、実際以上に寂しがってるふりなんて、私にしてほしくはないでしょう? でも私、あなたに会うのはとても好きなのよ――よくご存じでしょ――、あなたがこちらへ来られないとがっかりします。あなたの美点は何から何まで好ましく思っています。でもね、ゴードン、手紙だとどうしても私、感傷的になれないの。いつだって、あなたが戸棚の上にぽいっと置いた手紙を、ホテルの部屋係が読んでしまったらどうしようって考えてしまう。手紙はいつも胸のそばにしまってあるから心配ないよ、なんて言ってこなくていいわよ、そんなことしてないに決まってるもの。
 もし、前回のお手紙で不快な気分にさせてしまったのならごめんなさい。孤児院に来てからというもの、私はアルコールの話題については過敏になっています。あなただって、私が見てきたような状況を目にしたら、きっとそうなるはずです。ここの子たちの何人かは、アルコール依存症の親から残念な性質を受け継いでいて、この先ずっと、ほかの子たちと同じような機会に恵まれることはありません。こういう場所にいては、最悪の事態を考えずに過ごすことなんてできないの。

(続く)

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